第2話 押し切られた形

改めて、小野寺さんのスペックを見てみよう。


身長は160cmくらいだと思う。銀髪でツインテール、整った目鼻立ちと、愛らしいぷっくりとした唇。そして、制服のシャツでは隠し切れない、立派なものをお持ちである。足もすらっと長くて、まるでモデルさんみたいだ。


「そんなに見つめて、どうしたんですか?ダメですよ?わたしの元カレでもないのに、そんなにじろじろ見ては」


「元カレだったら、じろじろ見ていいんだ?」


とんだ暴論だと思う。一度付き合ったら、別れたとしても変な目で見ていいってこと?あっ、今僕は変な目で小野寺さんを見たわけじゃないから。


「小野寺さんには、元カレがいるの?」


「いませんよ。北村くんが初めての元カレにになりますね」


いや、付き合ったこと無いって言ってよ。僕だけ失敗した人みたいに言わないでくれよ。あれか?キスしたのはいいけど、くさやの干物ぐらい口が臭くて別れたとか?それなら元カレって言われるね!うん。


「もう元カレ元カノから、話題を変えない?」


いい加減、うんざりしてきたよ。なんで、付き合って幸せな気分を味わったわけでもないのに、別れた後の関係性で話をしなきゃならないんだ?僕、何か小野寺さんに恨まれるようなこと、したかな?


「では、どんな話題にしますか?北村くんが考えてください」


「えっ!?」


まいったな。自分から言ってみたものの、提供できる話題なんて用意してるわけがない。うーん。あ、でも、これだけは聞いておきたい。


「えっと、小野寺さんは、僕のこと、好きですか?」


「元カレとして、好きです」


「何なの!?僕が小野寺さんを振ったみたいに言わないでよ!」


「あっ、北村くんが、わたしのこと振った側が良いって言うなら、そうします。どきどき」


どきどきって何?僕全然どきどきしないんですけど。


なんで、僕と小野寺さんの間には何もないのに、何かあったかのようにしなければならないんだろう?


「あのね、僕はまだ、生まれてから今まで、誰とも付き合って無いんだよ。経験ゼロなんだよ?それなのに、付き合ったっていう過去形の話をするのは、無理があるよ」


「なるほど。北村くんは誰とも付き合ってないんですね。わたしもです。奇遇ですね?」


奇遇もなにも、自分のクラスに帰ってみんなに聞いてみなよ。きっと、半数以上は付き合って無いんじゃないかな。あ、付き合ったことぐらい、誰でもあるのか?


僕たちは高校一年生だし、中学までに、誰かとキスぐらいは経験済みなのかもしれない。わからないけど。僕や小野寺さんは、そういう経験が相当遅れているのかもしれない。


もしかして小野寺さんは、他の人に経験無いのをバレたくなくて、僕に元カレになってほしいと言ってきたのかもしれない。


「元カレがいなくても、いいじゃん」


「わたしは、元カレが欲しいわけではないんです。北村くんの元カノになりたいんです!」


「一緒だよ!関係性的には、元カレが発生するじゃないか!」


「全然違います!元カノとして、わたしのことを好きにして良いってことですよ?」


「はぁ?」


意味がわからない。矛盾してるし。普通に付き合ったほうが良い。


「なぜ、元カノにこだわるんだ?」


「だって、だって!人はすぐに、別れてしまうじゃないですか!どんなに仲が良くてもっ!必ず、別れが・・・」


「いや、あの・・・小野寺さん?」


「元カノだったら、ずっと気にかけて、優しくしてくれそうじゃないですか。わたし、間違ってますか?」


うん。間違ってるよ。でも、間違ってるって言えない雰囲気だね。どうしよう?


「普通に付き合ったら、ダメなの?」


会話に疲れてきて、相手の好意を度外視した発言をしてしまった。


僕は、普通に付き合って、お互いを高め合って、それでいて、いつか、別れの時が来ても・・・


ってあれ?なんか、虚しくなっちゃうな。なぜ、人はどうせ死ぬ時は1人なのに、付き合おうとするんだろう?哲学的な話になってきた。この考えはまずい気がする。


「一生一緒にいようねって言っていたカップルが、別れてしまうのを何度も見てるんです。わたしだけ、特別に別れない相手が現れるわけ、ないでしょう?だから、普通に付き合うのは、ダメなんです」


「なるほどね」


妙に納得してしまった。確かに、現実は残酷だ。どんなに好き同士でも、大半が結婚することなく、別れてしまうから。たぶん、小野寺さんはそのことを言いたいんだと思う。


「それで、わたしを、元カノに・・・」


「わかった。いいよ。僕で良ければ、小野寺さんが元カノになってほしい」


「ほ、ほんとですかぁ?」


「キス以上うんぬんはアレだね、僕たちが考えても仕方がないから、周りに合わせていこう。それで、とりあえず、いいかい?」


「はい!ありがとうございます!宜しく、お願いしますっ!」


小野寺さんがホッとしてる顔を見て、僕は一応安堵した。


「じゃあ、僕はもう、行くね?」


「あ、あのう・・・」


「ん?まだ何かあるの?」


「連絡先、交換しませんか?」


「えっ?」


どうして、連絡先を交換する必要があるんだろうか?フリだけど、僕たち元カップルだから、もう終わった関係、なんだよね?まどろっこしいけど、そうなんだよね?


「えっと・・・これ以上、北村くんに迷惑をかけるつもりはないんですけど、仮にだけど北村くんに恋人ができた時、どうするか、とかね?決めなきゃいけないと思うんです」


「そ、そっか・・・じゃあ、交換しよう」


なんだか、微妙に押し切られる感じで、小野寺さんと連絡先を交換してみた。


僕は考え過ぎて頭が疲れ切っていて、早く寝たい気分だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る