第22話 交換条件のようです
「条件……?」
「そうだ。条件を呑めば快適な生活とやらを保障してやる」
「……卑怯な」
ぐぬぬする私を眺め冷笑するイシュラ王に、暴君、人外、鬼畜、と心の中で罵声を浴びせる。
「条件は何ですか?」
「半年ほど王宮に滞在しろ」
「……は?」
「それが条件だ」
さも簡単なことのように言うこの暴君を誰かどうにか……と周囲を見回すが、この部屋にいるのは暴君の側近だけ。しかも優しい執事のおじ様とうちのお母さんな騎士様。この二人に暴君の暴走を止めさせるわけにもいかず、これは私がどうにかするしかないと臨戦態勢を取った。
「滞在日数が長過ぎます」
「……長いのか?」
「せめて一週間です」
「それは短過ぎるだろうが」
「大分譲歩しましたけど」
「それなら三ヵ月だ」
「だから長いですって!我儘を言うと三日にしますよ」
「三日……?」
「因みに今日を入れて三日です。あ、一日でもいいですけど」
「……」
イシュラ王は目を細め、「正気か?」と言うが、私は正気である。
ふんと胸を張って人差し指を立てれば、私達のやり取りを見つめていたローガットさんが、イシュラ王に何か耳打ちをした。
そっちにだけ協力者がいるなんてずるい!と、こちらもすかさずリオルガを呼び寄せる。
「村には直ぐに帰れますよね?」
「勿論」
クスッと笑いながら同意してくれたリオルガに喜び椅子の上で弾み、どうだ!とイシュラ王を見れば、大袈裟に溜息を吐き「一月だ」と眉を顰めた。
この辺りが引き際だと頷き、契約終了となる。
「一月……二月にするべきだったか……いや、だが」
イシュラ王は不機嫌そうにまだ何かぶつぶつと言っているが、そもそも自称父親と話をしたあと直ぐに此処を去るつもりでいたから、ああして王妃様とやりあったのだ。
王宮に暫く滞在することになると分かっていたら、もっとやりようはあったと思う。
あの王妃様とメリアが居る王宮に一月も滞在するのだから、慰謝料の増額は覚悟するといい。
「リスティア様のお部屋はいかがいたしましょうか?」
「此処でいい」
「へ……!?」
直ぐに準備をと動き始めたローガットさんが部屋を出る前にそう訊ねると、イシュラ王は考える素振りもせず即答した。
何の罰ゲームかとローガットさんに首をぶんぶんと左右に振るが、苦笑されるだけ。これではまずいとリオルガに「無理です」と小声で助けを求めれば、うちのお母さんは即座に動いてくれた。
「まだ顔を合わせて間もないというのに、同じ部屋で過ごせるとお思いですか?」
「俺は過ごせるが」
「それは陛下が……無神経?図々しい?いや、無遠慮……とは違うような」
「無遠慮はお前だ」
イシュラ王は言葉を選び考え込むリオルガにぞんざいに手を振ったあと、ローガットさんに向かって「隣を開けろ」と指示を出した。
「用意が整うまで暫くかかる。その間だけこの部屋を使え」
「隣って……」
「お前の母に与えた部屋だ」
まさかの歴代の王妃様達が使っていた部屋。
側室だった母に与えたその部屋を娘が使うと知ったら、あの王妃様は怒り狂うに違いない。
「たった一月しか滞在しないのに、そんな危険な部屋を使えと!?」
「この部屋は嫌なのだろう?」
「それはそうですけど、他に、あ、客室とか」
「統括宮の中に客室はない。別宮になるが、そこは王妃が容易く出入り出来るぞ」
「……」
「それに、部屋はジュリアが使用していたときのままだ。彼女の私物が沢山あるが、見たくはないのか?」
「……私物」
「此処を出て行くときに、邪魔になると言って置いて行ったからな」
慰謝料として全部持っていけばよかったのにと思うが、側室が持つような装飾品やドレスなどをその辺の街で換金すれば怪しまれ、治安部隊に通報される可能性がある。
その辺のことを考慮した母の賢さに感動しつつ、その頃の母の姿絵を持っていないだろうかとイシュラ王を見つめた。
「……何だ?」
「母の絵姿とか持っていませんか?」
「……」
「その顔は持っていますね?」
「……ジュリアの部屋に飾ってある」
この短時間で大分この人の表情を読めるようになってきたぞとほくそ笑む。
「見てみたいです!」
「明日案内してもらえ。気に入ったのならそのまま使えばいい」
「気に入らなかったら?」
ふっと鼻で笑われ、この部屋だと床を指差された。
「ふあっ……」
一通り話は終わり、もう遅い時間だということで就寝の支度待ちをしていたら、手持ち無沙汰で眠気が。
ローガットさんが一月滞在する間の私の侍女を直ぐに選ぶと言い、そのまま部屋を出てから数十分。イシュラ王は執務室から大量の書類を運ばせており、リオルガは護衛騎士の手配をしに此処を離れている。
なので私は椅子に座って待機し、長机の上にどんどん積み上がる書類の量に若干引きながら、暖かい部屋でぼーっとしているからか瞼が落ちて……。
「……はっ、痛っ!」
首が後ろにガクッとなり椅子の背凭れに頭をぶつけた。
完全に意識がなかったと焦りつつ目を瞬くと、中途半端にこちらに向かって手を伸ばしているイシュラ王と目が合った。
「……眠いのか?」
「はい、とても」
ここで強がっても仕方がないと正直に言えば、奇妙な者を見るような目を向けてくるイシュラ王が立ち上がって、私を抱き上げた。
「……」
「動じないな」
眠くてそれどころではないのだと、イシュラ王の肩に全体重をかけて凭れかかり、勝手に落ちてくる瞼に抗う。
私室の奥にある寝室には、やはりベッドとサイドテーブルしかなく、この何もない部屋でどう一緒に過ごす気なのか。
「寝ろ」
ふかふかの大きなベッドに寝かされ、顔まで布団を被せられたが、息は出来るので問題ないとそのまま目を閉じた。
「おやすみなさい」
ふあっと欠伸をしそのまま意識を手放す。
辛うじて布団から出ている頭を撫でられた気もするが、恐らく勘違いだろうと、束の間の柔らかな布団を堪能することにした。
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