第34話 マリーとシャルロット

 僕がシャルロットと会話出来る事がバレてしまい、マリーさんが迫ってくる。


「ねぇ、早くっ! お願い、お姉様とお話しさせてっ!」

「え、えーっと……」

「何よ。あ、お姉様とお話ししたければ、この前の続きをしろって事? 本当、男って仕方ないわね。じゃあ……」

「違うってば! ……はぁ。シャルロット。ごめん、マリーさんにバレちゃってて……」


『なるほど。しかし、今のマリーから敵意は感じられません。おそらく、所有者の命令で私を攻撃せざるを得なかったのでしょう。ですので、今の私をマリーに見せても大丈夫ですよ』


 少し前にマリーさんが話していた事と、ほぼ同じ事をシャルロットが推測する。

 なるほど。ストレージに収納している間は、外の会話は聞こえないのか。

 とりあえず、マリーさんが話していた、シャルロットを逃したいというのは本当らしいので、


「という訳で、シャルロット……だよ」


 胸ポケットからシャルロットを取り出し、マリーに見せる。


「これは……確かに、お姉様っ! お姉様っ! マリーです! 分かりますか!?」

『えぇ、もちろん覚えています。ふふふ……貴方の放った攻撃魔法は、とても強烈でしたから。うふふふふ……』


 えーっと、シャルロット?

 実はめちゃくちゃ根に持ってない?

 何となく黒いオーラが溢れ出ている気がするんだけど。


「お姉様? どうしてお応えになってくださらないのですか? お姉様ぁっ!」

「えーっと、シャルロットはめちゃくちゃ応えているんだけど……もしかして、マリーさんには聞こえないの?」

「えぇっ!? ……ほ、本当にお姉様はお話しされているの?」

「うん。マリーさんの攻撃魔法は素晴らしかったよ……って」

「まぁ、お姉様。お褒めいただき、ありがとうございます。しかし……私にお姉様の声が聞こえないのは困りましたわね。というか、どうして貴方にはお姉様の声が聞こえているの?」


 いや、そんなのこっちが知りたいんだけど。

 ……あ、ゴミスキルのせいか。

 ゴミと会話出来る……と言っても、今のところ話した事があるのはシャルロットのみだけど。


「えっと、シャルロットはゴミとして捨てられていて……」

「お姉様がゴミな訳ないじゃないですかっ!」

「いや、それは僕も十二分にわかっているんだけど、そうじゃなくて、僕のスキルはゴミと会話出来るスキルだから、それでシャルロットの言葉がわかるんじゃないかな?」

「なるほど。察するに、お姉様はマジックフォンの形態では動作出来るけど、私のように人型の形態にはならないと言ったところかしら。けど、今の時代にお姉様を修理出来る技術は無いし……」


 あー、シャルロットの修理か。

 実は魔鋼鉄っていう材料さえあれば出来るんだけど、おそらくそれはマリーさんの事。

 マリーさんを破壊して魔鋼鉄を取り出せば、シャルロットは修理出来るんだけど、流石にそれは寝覚めが悪い。

 この話をマリーさんに伝えれば、自ら命を絶ちかねないから、絶対に言えないけどね。


「わかりました!」

「えっ!? な、何がわかったの!?」

「名案を閃いたの。これから、貴方にも一緒に来てもらって、お姉様の通訳をしてもらうのよ。海に浮かぶ小さな島に、可愛い家を建てて三人で暮らすの。どの方角を見てもオーシャンビューで、家から釣りをして、暑い日には海で泳ぐの。貴方、私の水着姿を見放題よ。嬉しいでしょ?」


 いやまぁ女の子の水着姿は、嬉しいか嬉しくないかと言えば、嬉しいのかもしれないけど……それよりも、ついさっき、似たような家の話を聞いた気もする。


「喜びなさいっ! この世界の技術が、お姉様を修理可能になるまで、私が貴方をずっと養ってあげるわっ!」

「えーっと、ツッコミ所が多過ぎるんだけど、とりあえず、その修理可能になるまで、どれくらいの期間が要るの?」

「んー、何となくだけど……五百年くらい?」

「無理だよっ! 流石に死んじゃってるよっ!」

「そこは気合でなんとか」

「気合で、どうこう出来るレベルを超えているよっ!」


 無茶振りどころではない話を聞いていると、そのマリーさんが突然魔法を使いだす。


「そろそろね……うん、大丈夫ね。馬車を無事着地させたわ」

「ありがとう」

「どういたしまして。けど、二回魔法を使っただけなのに、もうエネルギーが……貴方。次はもっと沢山注入しなさいよねっ!」

「ご、ごめんね。急だったから」

「まぁいいわ。最後に、この馬車の睡眠魔法を中和させておくから……お姉様を頼んだわよ」


 そう言って、マリーさんがマジックフォンの姿に戻り、暫くすると、


「ん……あれ? クリス、いつの間にか眠っちゃってたんだ。お兄ちゃん、ごめんね」

「いや、大丈夫だよ」


 クリスや他の乗客に、御者さんがが目を覚ました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る