第32話 勘違いされて喜ぶクリス
「すみません。薬草採取の依頼を終わらせました」
「はーい。じゃあ、籠をお預かりしますねー」
「あの、ちょっと訳ありで、急いでいるんです。次の馬車に乗りたくて」
クリスを連れて宿を出ると、冒険者ギルドへ。
薬草採取用にギルドから渡された籠を捨てる訳にもいかず、とりあえずこれだけ返しに来たんだけど……お姉さん、急いでくれないかな。
「では、中身の確認を行いますー……って、お兄さん。凄いですねー。薬草が沢山入ってますー!」
「いや、あの……急いでるんですけど」
「わーっ! これは、見つけるのが非常に難しい、ギネゾエ草じゃないですかーっ! こんなの一体どこで……って、こっちはロコドマーの花っ!? お兄さん凄ーい! もしかして、植物博士ですかー?」
急いでいると言っているのに、ギルドのお姉さんが、籠の中の薬草を一つ一つチェックしていく。
もう籠も返したし、報酬とかも要らないから、ギルドを出ようかと思った所で、
「お待たせしましたー。こちらが報酬となります。貴重な薬草が沢山ありましたので、かなり色をつけさせていただきましたー」
計算を終えたお姉さんが、スッと小袋に入った報酬を出してきた。
口調はのんびりだけど、凄く仕事が早い人だったらしい。
「すみません。ありがとうございます」
「お急ぎみたいなので、後日にしますが、今回の依頼達成で、Dランクに昇格していますー。移動先の街にある冒険者ギルドで、必ず説明を聞いてくださいねー」
「はい、わかりましたー」
一先ずギルドでの用事が済んだので、急いで乗合馬車の停留所へ。
さっきもらったばかりの報酬を使って、特急馬車に……って、ちょっとまって!
ただの薬草採取のはずなのに、金貨が入っているんだけど!
……いや、それより先に街を出なきゃ!
「すみません。今から特急馬車で行ける、一番遠くの街ってどこですか? あ、南方面以外で」
「今からだと……西にあるキータグチの街だな。ちょうど、キータグチ行きの特急馬車が出る所だが、どーする?」
「乗ります! 二人分、お願いします」
「あいよ。……兄ちゃんたち、随分と若いけど駆け落ちかい? あんまり無茶はするなよ?」
駆け落ち……って、あ、僕とクリスがか。
何処でも良いから遠くに……なんて言い方をしちゃったのが悪かったね。
一先ず馬車に乗り、一番後ろの席に座ると、
「……シャルロット。宿に居た騎士はどうしているか分かる?」
『街の入り口でウロウロしていますね。おそらく、カーティスさんを追うかどうかで迷っているのでしょう』
僕が宿を出るまでは、二人組だったけど、もう一人は今頃ジェームズの傍にいるだろうからね。
出来れば、このまま追い掛けて来ないで欲しいんだけどな。
そんな事を考えているも、クリスがギュッと僕の手を握ってくる。
あ、クリスに状況を全然説明出来ていなかったね。
先ずは何があったか話そうとしたんだけど、
「お兄ちゃん。か、駆け落ちだってー。ふふっ……クリスたち、そんな風に見られているんだねー」
「そうだね。今回は、訳あってバタバタしちゃったけど、次からは余裕を持って行動しなきゃね」
「えへへっ。駆け落ち駆け落ちー」
何故かクリスが嬉しそうにしていて、僕の話を聞いてくれそうにない。
なので、シャルロットに確認したい事があったので、先にそっちを済ます事に。
「……シャルロット。さっき、摘んだ薬草をギルドへ持って行ったら、凄い高値で買い取られたんだけど、どうして? 森で集めたのって、普通の薬草だよね?」
『何をもって普通と呼ぶのかは難しい所ですが、一先ずあの時カーティスさんが居た場所から、近い順に案内しましたよ?』
「……その近い場所に、偶然高価な薬草があったっていう事?」
『偶然……というか、高価ではありますが、そこら辺の森に入れば、結構生えていますよ? ただ、ちょーっと分かり難い場所に生えているだけです』
なるほど。シャルロットは、見た目には分かり難い場所でも、薬草が生えている位置が分かるから、そこへ僕を案内して……って、それでも籠一杯分の薬草で、金貨数枚は多過ぎるよっ!
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