第18話 男の娘になってしまったクリス

 首元までの、短いけどサラサラした茶色い髪と、恥ずかしさで薄っすらとピンク色に染まる雪のように白い肌。

 これまでは半袖半ズボンから伸びていた細い手足が、今はノースリーブのワンピースから伸びていて、更に露出が増えている。

 クリスが、どこからどう見ても女の子になってしまった。


「じゃあ、お兄ちゃん。おきがえも済んだし、ど……どこに行く?」

「そ、そうだね。えっと、食事……食事に行こうか。あ、少し休憩してからね」


 クリスが男の娘になってしまったばかりか、そのままの格好で外へ出掛けようとしている。

 いや、こうなってしまったのは僕がワンピースを手に取ってしまったからなんだけど、クリスがここまでしている以上、今更適当だったとは言えない。

 どうすればクリスを普通の男の子に戻せるか考えないと!


「お、お兄ちゃん。じゃあ食事の前に、街へ行かない? 何か欲しい訳じゃないんだけど、一緒にお散歩したくて」

「え!? う、うん。分かった」


 どうしよう。

 クリスは、この格好のままで行くつもりだよね?

 確かに、見た目は女の子にしか見えない程に可愛いんだけど、それのまま外へ出掛けるって……変な趣味に目覚めちゃってるーっ!

 これを戻すには……男らしさとかが必要なのかな?

 ベッドに寝転び、どうすべきか考えていると、


「クリスも、お兄ちゃんと一緒に寝るー!」


 クリスが抱きついてきた。

 うぅ……昨日は何とも思っていなかったのに、何故か今はくっついている箇所が柔らかいとか、体温が高いとか、変な事ばかり意識してしまう。

 クリスは男の子なんだから、これじゃあ僕が変態じゃないか。


『カーティスさん。体温と心拍数の上昇が著しいですが、大丈夫ですか?』


 シャルロットはそんな事までわかるのっ!?

 いや、それよりも、クリスを何とかしなきゃ。

 お日様みたいな良い香りがするし、いつの間にか猫耳が生えててモフモフしているし……つい手が頭を撫でてしまうっ!


「よ、よし! 十分休憩したし、お散歩に行こうか」

「うんっ!」


 このままでは変な気持ちになってしまうので、ベッドから降りて気持ちを切り替える。

 って、クリス! スカートなのに足を広げるから、下着が見えて……って、クリスは男の子だよっ! しっかりしろ僕!

 ……というか、その下着も買ったの?

 白いパンツに、ピンク色のリボンが付いていたんだけど……こ、ここまで徹底しているクリスを元に戻すのは、かなり大変な気がする。

 短期間で一気に……は無理そうだから、時間を掛けてじっくり取り組む必要がありそうだ。


「お兄ちゃん、行こーっ!」


 クリスの小さな手が僕の手を取り、テクテクついてくる。

 うん。変に意識するからダメなんだ。

 これまでクリスとは手を繋いでいたし、変な事を考えないようにしよう。


「クリス。何か見たい所があったりするの?」

「んー、雑貨屋さんとかがあれば見てみたいかな」

「わかった。じゃあ行こうか」


 ワンピース姿のクリスと手を繋ぎ、商店街へ。

 二人で露店を見て回っていると、


「お嬢ちゃん、可愛いね。これなんてどうだい? きっと似合うよ!」


 クリスがオバサンから、水色の大きなリボンを勧められたーっ!

 違うんですっ! 確かに容姿も仕草も可愛いけど、クリスは男の子なんですっ!


「可愛いっ! けど……」

「あぁ、お兄さんの許可がいるんだね? お兄さん、どうだい? 本当は銅貨七枚の商品なんだけど、五枚……いや、お嬢ちゃんが可愛いから、銅貨三枚で良いよっ!」


 いや、だから買わない……って、クリスが上目遣いで見上げてくるっ!

 違うんだ。今は懐に余裕もあるし、欲しいものがあるなら、買っても良いんだけど、男の娘を加速させるアイテムは、宜しくないと思うんだ。

 けど、クリスが目を輝かせて僕を見つめていて……


「……か、買います。それ、ください」

「毎度ありっ! お嬢ちゃん、良いお兄ちゃんだねっ! それとも彼氏かな?」

「えへへー、ナイショですっ!」


 思わず買ってしまった。

 その後も、暫く街を歩き、事あるごとにクリスが可愛いと言われ……クリスを元に戻すのは、めちゃくちゃ難しい気がする。

 い、いや、諦めちゃダメだ!

 何とか気合いを入れ直して食事を済ませ、僕とクリス、それぞれ桶で身体を洗う。


「お兄ちゃん。もう、こっちを見ても良いよー」

「わかった。じゃあ、そろそろ寝ようか」


 昨日と同じように僕のベッドへ潜り込んできたクリスを、変に意識しないようにして寝る事にした。

 ……クリスは男の子なんだーっ!

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