第17話 僕のお世話をすると言いだすクリス
「……シャルロット。一体何をしたの?」
『何もしていませんよ? ただ、あの少年の魔力と詠唱のクセから、飛んでくる氷の軌道を予測し、当たらない場所へ移動いただいただけです』
いやそれ、凄くない!?
だって、嵐みたいな風の中で、無数の氷の塊が凄い速さで飛んでくる魔法なんだよ!?
……って、感心している場合じゃない! 僕も反撃しなきゃ。
ジェームズには悪いけど、クリスを守る為だと、杖を向けたものの、シャルロットと言葉を交わした分、出遅れてしまった。
「くっ……な、ならば、これならどうだっ! ≪ファイア・ストー……」
「ダメーっ! お兄ちゃんに変な事しないでっ!」
「クリスっ!? ダメだ! 危ないっ!」
ジェームズが僕より先に魔法を完成させ、発動させようとした所で、僕の制止を聞かずにクリスが凄い速さで駆けて行き、その勢いのまま体当たりする。
クリスは、幼い男の子に見えるけど実は身体能力に優れた獣人族だからか、それともジェームズが油断していたからか、思いっきり後ろへ吹っ飛んだ。
僕も急いで走り、ジェームズの手から離れていた杖を遠くに蹴飛ばすと、
「動くな!」
顔に僕の杖を突き付ける。
「ま、待ってくれ兄貴。冗談だよ、冗談。悪かったよ。ちょっと、兄貴にちょっかいをかけてみただけなんだ。……長年同じ家で暮らした実の兄弟だろ。許してくれよ」
「…………次は無いぞ」
「わ、わかってるよ……チッ!」
ジェームズの奴、見逃してやったのに舌打ちして逃げて行った。
まったく……実の弟でなければ、問答無用で雷魔法を打ち込んでいる所だよ。
「お、お兄ちゃん! 守ってくれて、ありがとーっ!」
「いや、それは僕の方こそだよ。クリスがジェームズにタックルしてくれたおかげで勝てたんだ。……でも、危ないから出来ればしないで欲しいけど」
「ご、ごめんね。お兄ちゃんを助けないとって思ったら、いつの間にか身体が動いちゃってて。……それより、さっきの人って、お兄ちゃんの弟さんなの?」
「うん。ちょっと、実家で色々あってね」
これまでクリスに説明していなかったけど、巻き込んでしまった形になってしまったので、一先ず事情を説明する。
「……えっ!? じゃあ、お兄ちゃんは、その授かったスキルが期待していたのと違ったっていうだけで、勘当されたの!? 何それ、酷い! スキルなんて、何を授かるか自分で選べる訳じゃないのに!」
「そうなんだけど、うちのご先祖様に何人か賢者が居てね。それで、僕のゴミスキルが許せなかったみたいなんだ」
「ゴミスキルって、名前は確かに誤解しちゃいそうだけど、実際は凄いスキルなのに! 絶対におかしいよ!」
「はは……いやもう良いんだよ。実際、このスキルで家を追い出される事がなければ、クリスに会う事もなかったし、今となっては、勘当されて良かったと思っているからさ」
「お兄ちゃん……うん、決めた! お兄ちゃんの事は、クリスに任せて! クリスが、お兄ちゃんのお世話をずーっとしてあげるから」
いや、お世話って。
僕より幼いクリスにお世話してもらうのは、どうなんだろうか。
……まぁでも料理とか掃除とかって、家ではメイドさんたちがやってくれていたから、僕は殆どやり方が分からない。
そういう家事のやり方を教えてもらうっていうのはアリかもしれないな。
「じゃあ、一先ず今度こそ宿へ帰ろうか」
「うんっ! クリス、お兄ちゃんの為に頑張るねっ! いつかお金を貯めて、二人で住むお家とかが買えるといいなっ!」
家……か。毎日宿に泊まるより、そっちの方が良いのは分かるけど、とりあえずEランク冒険者で家を買うなんて到底無理な話だから、先ずは仕事を頑張って昇級しないとね。
そんな事を考えつつ、ジェームズが落とした杖を回収し、ストレージに収納して宿へ戻ると、
「お兄ちゃん。先ずは着替えるから、少し向こうを向いていてくれる?」
「ん? あぁ、分かったよ。着替え終わったら、呼んでね」
「うんっ!」
色々あって僕は忘れてしまっていたけど、クリスが買って来た服に着替える。
暫く待っていると、背後から声が掛かり、着替えを終えたクリスが……
「ど、どうかな? お兄ちゃんが選んでくれた服を着てみたんだけど」
「そ、そうだね。に、似合っているよ」
可愛らしい水色のワンピース姿で立っていた。
しかも妙に似合っていて、ちょっと可愛いとさえ思ってしまった程だ。
だけど、どうしよう。
僕が適当に服を選んでしまったせいで、クリスが……クリスが男の娘になっちゃったーっ!
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