挿話1 兄が追放され、次期当主が確定したジェームズ

「さて、一晩経ったな。おい、誰か街へ行って、バカ兄貴カーティスを探してこい」

「ジェームズ坊ちゃま。それは、カーティス様を保護されるという事で……」

「バカか! そんな訳ないだろ。奴は昨日、どこの宿にも泊まれず、何も食べる事が出来ず、橋の下や公園などで一夜を過ごしているに違いない。その姿を思いっきり笑いに行くんだよ! さっさと行け」

「……か、畏まりました」


 まったく。俺様は大賢者を排出しているルイス家の次期当主様だぞ?

 自分の身をわきまえず、この俺様に突っかかって来たバカをとことん追い込んでやるんだ。

 その為に、わざわざ各ギルドに手を回して、アイツがこの街では生きていけないようにしてやったんだからな。

 数日は耐えるだろうが、そのうち土下座して謝りに来るはずだから、そこで許すと見せかけて許さず、絶望の淵に落とす……ふふっ、想像しただけで笑えてくるぜ。

 あの無能なカーティスに、何て言ってやろうかと考えていると、


「失礼します。ジェームズ様、オリバー様がお呼びです。急いで応接室へ来るようにと」

「親父が? しかも応接室って……わかった。すぐに行く」


 メイドの一人が俺の部屋へとやって来た。

 一先ず、言われた通りに急いで応接室へ行き、


「父上、ジェームズです。失礼します」

「うむ……」


 中に入ると、親父がテーブルの上に置かれた変なカードを前に、唸っていた。


「父上。どのようなご用件でしょうか」

「あぁ、先ずは経緯を話そう」


 親父が言うには、先程まで国の偉い人が来ていたらしい。

 何でも、強力過ぎて、大昔に破壊されたはずの古代兵器の一つが復活したのだとか。

 観測している魔法力からすると、完全復活には至っていないそうで、今の不完全な状態の内に、その兵器を回収し、国で管理したいらしい。


「父上。にわかには信じられない話なのですが」

「うむ。だが、騎士団の団長が来る程だからな、本当の話なのだろう」

「き、騎士団長が!? ここに!?」


 何千もの騎士を束ねる騎士団の長が、わざわざ王都から離れたここまで来て言うのであれば、本当なのかもしれない。


「しかし何故、騎士団長が我が家へ?」

「うむ。それが、この……マジックフォン? とやらの為だ」


 聞き慣れない言葉と共に、親父が謎のカードを指し示す。


「これも古代兵器の一つらしい。とはいえ、先程の復活した兵器とは異なる機能なのだとか」

「このカードが……ですか?」

「うむ。お前も起動すれば分かる。これは、とんでもない代物だ。そこの……カードの表面に描かれた、緑の丸に触れてみよ」


 親父に言われた通り、カードに触れると、カードが白く輝き……気付いた時には、珍しい黒髪の美少女が立っていた。


「な……父上、これは!?」

「先程のマジックフォン……あれの真の姿だそうだ」


 美少女は、俺と同じくらいの年齢だろうか。切れ長の目で冷たく俺を見下ろしている。

 胸が小さいのは残念だが、短いスカートから覗く脚は、白くて柔らかそうだ。

 触っても良い……よな?

 その柔らかさを確かめようと手を伸ばすと、


「ゴミが! 汚い手で触れるな」


 綺麗な声で、冷たく罵られる。

 ……あれ? 何故だ? この俺様がこんな事を言われているのに、ゾクゾクして、もっと罵られたい……いやいや、何を言っているんだ。しっかりしろ! 俺!


「お前は何者だ?」

「……私はマリーだ」

「お前……いや、マリーは人間なのか?」

「人間といえば人間だが、マジックフォンでもある」


 こいつは何を言っているんだ?

 ……俺と会話をする気がないという事か?

 どうしたものかと考えていると、突然目眩がして来た。


「ふん、もう限界か。賢者の家系と聞いていたが、情けない」

「な、何だと……消えたっ!?」

「ジェームズ、無理をするな。どうやら、あの女を出現させるには、多大な魔法力が必要らしい。かく言う私も魔力枯渇状態に陥ったからな」


 なるほど。親父はもう年で、体内に有する魔法力の量が減少している。

 それで俺を呼んだのか。


「ジェームズよ。騎士団長から依頼された、古代兵器の回収は、先程の女の協力が必須らしい。王国にルイス家の覚えを良くしてもらう為にも、頼んだぞ」

「か、畏まりました」


 って、俺に丸投げかよっ!

 魔法力の量だけなら、俺よりも無能なカーティスの方が……って、あんな奴に頼れるかっ!

 クソがぁぁぁっ!

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