異世界に来ちゃったけどお兄ちゃんと一緒なら大丈夫なのです
@pon0610
第1話異世界に来ちゃったけどお兄ちゃんがいれば大丈夫なのです
8月某日、この俺『望月誠也』と妹のほのかは炎天下の中、田舎の坂道を登っていた。
「お兄ちゃん、暑いです〜」
「暑いのは俺も一緒だ、てゆうか暑いならもっと離れて歩いてくれ」
妹のほのかに服を掴まれながら歩いていた。
「ほら、見えてきたぞ」
そう言いながら俺が指差した先には霊園があった。
霊園の中の墓のほとんどには色紙と竹でできたカラフルな灯篭が飾られていた。
「それにしても、この灯篭ってのはいつ見てもきれいだな」
「そうですね、この風景を見れただけでも来たかいがあるのです」
この地域独特の文化らしく、俺達が住む東京では見られない光景だ。
「さ、とっとと済ませようか」
「お兄ちゃん、そんな言い方ではバチが当たるのですよ?」
そして俺達は水を汲み、うちの墓へと向かう。
一通り墓の整備を終えて一息つく。
「これできれいになったな」
「そうですね、私はお花を飾りますね」
ほのかはそう言いながら花瓶に菊の花を入れる。
俺は鞄からカッターを取り出した。
「あーあ、毎回これだけは嫌なんだよな・・・」
「それならたまには私が変わりますよ?」
「いや、ほのかにそんなことはさせられないよ。まぁ、ほんの一瞬だし我慢するさ」
俺は覚悟を決めて、カッターで親指を切る。
「ぐっ、やっぱ痛いな」
そして小皿に少量の血を入れてお供えする。
なぜ墓参りでこんなことをするのか。
それは俺達のご先祖様が吸血鬼だからだ。
まぁ、本当か嘘かは分からないし俺もほのかもれっきとした人間なんだけれど。
そして俺はしゃがんで手を合わせる。
「父さん、母さん。俺もほのかも元気にしてるから安心してくれ」
「パパ、ママ、私は元気なのです。お兄ちゃんに比べたら私はまだまだ頼りないけど、二人でがんばってるのです」
隣でほのかも手を合わせていた。
うちの両親は俺達がまだ物心つく前に事故で亡くなっていた。
「さぁ、そろそろ帰ろうか」
「はい、そうですね」
俺とほのかは帰り支度を済ませ歩き始めた。
帰り道の途中、ふと気になるものを発見した。
「あれ、あんなところにトンネルなんてあったっけ?」
「ほんとなのです。私は全然気が付きませんでした」
何度も通っている道なのに、見たこともないトンネルができていた。
「方角的には近道になりそうだな」
「でもちょっと怖い感じですね」
そのトンネルは灯りはあるもののかなり薄暗い。
「まぁとりあえず行ってみよう」
そして俺達はトンネルの中へと入っていった。
トンネルの中腹に差し掛かった時だった。
グラグラと地面が揺れ出した。
「地震っ!?なんでこんな時に!?ほのか、走るぞ!」
「はいなのです!」
俺達は全力で走り出した。
するとさっきまで歩いていたところは天井が崩れてきた。
「ヤバイ!急ぐぞ!」
後ろはだんだんと落盤で崩れていく。
「よし、出口だ!」
俺達はなんとかトンネルを抜けることができた。
「はぁ、はぁ。ほのか、大丈夫か?」
「はぁ、はぁ、なんとか大丈夫なのです」
二人とも全速力で走ったため、力尽きて地面に座り込んでいた。
「まったく・・・あれくらいの地震で天井が崩れるなんて手抜き工事もいいとこだよな」
「まったくなのです」
そしてふと振り返る。
「あれ、俺達今どこから出てきたっけ?」
「どこって・・・ふぇ?」
そこにはただの壁しかなく、トンネルがあった形跡すらなかったのだ。
「え・・・?おかしいよな?崩れたにしても形跡ぐらい残るはずだよな?」
「たしかになのです。全く崩れてないのは変なのですよ」
落ち着いて辺りを見回してみると、そこは見たこともない森の中だった。
「ここはどこら辺だ?ちょっと見てみよう」
俺はスマホを取り出し、マップを起動させる。
「あれ?おかしいな。さっきまで使えてたのに。電波も圏外だし。ほのかのはどうだ?」
マップは位置情報を取得できなかった。
ほのかもスマホを取り出して操作をする。
「私のもだめなのです」
「電波が圏外になるほど田舎じゃないはずなのに。とりあえず町に向かおう」
「はいなのです」
そして俺達は町の方向に向かって歩き出した。
しばらく歩いていると、茂みから白い何かが飛び出した。
「わぁ、ウサギなのですよ」
それは白いウサギだった。しかし、何かが違う。
「あんなウサギいたっけか?角が生えてるぞ?」
ウサギの頭にはなぜか鋭利な角が生えていた。
「きっと新種なのですよ。さぁ、こっちおいで〜」
ほのかがしゃがんで手招きする。
何かがおかしい・・・。
「ほのか、よせ!」
俺がそう叫ぶと同時にウサギが角をこちらに向けて突進してきた。
「きゃあっ!」
「ほのか!!」
俺はとっさにウサギを蹴り飛ばした。
「危なかったな・・・。大丈夫か?」
「だ、大丈夫なのです・・・」
ウサギはそのまま逃げていった。
「いったい、あれはなんだったんだ」
「びっくりしたのですよ。あんな攻撃的なウサギさんは初めてなのです」
俺達は気を取り直して歩き出し、やがて森を抜けた。
そこには草原が広がっており、舗装された道路は全く見当たらない。
「おかしいな。こんな場所この辺りには絶対無かったはずだ」
「私も全然見覚えがないのです」
それに8月のはずなのに、なぜか少し肌寒い。
草原を歩いていると、遠くから何かが近づいてきた。
「ん?なんだあれは・・・?」
「馬・・・でしょうか?それにしてはなんか大きさが・・・」
それはだんだん近づいてきた。
「いやいや!!こんな馬はいないだろ!」
高さが3mはある巨大な馬のような怪物だった。
「ほのか、逃げるぞ!」
「はいなのです!」
俺達は再び全速力で走り出したが、あっという間に追いつかれてしまった。
「くそっ!!俺がひきつけるからほのかは早く逃げろ!」
「そ、そんなこと・・・お兄ちゃん!」
馬の怪物は前足を高く振り上げた。
やばい、死んだ。
そう思った瞬間だった。
「ファイヤーアロー!!」
そんな声が聞こえ、炎の矢が馬の怪物に突き刺さった。
そして馬の怪物は倒れた。
「あなた達、大丈夫!?」
矢の飛んできた先から二人の男女が駆け寄ってきた。
「は、はい。なんとか・・・今の怪物は一体・・・」
俺が尋ねると、男が答えた。
「あれはダークネスホースだな。Cランククラスの魔物だ」
「魔物!?」
俺は驚きのあまり叫んだ。
「ん?魔物を見るのは初めてか?あんたらどこから来たんだ?服も変わった感じだし」
「俺達は東京から来たんだけど、ここはいったいどこですか?」
「トーキョー?聞いたことない国だな。ここはレグニカ王国だ」
なんだって?
「ということは、お兄ちゃん」
ほのかが俺に語りかける。
「ああ、間違いないみたいだな。嘘みたいだけど俺達は違う世界に来てしまったみたいだ」
俺達兄妹は墓参りの帰りに異世界転移してしまったのだ。
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