神狼フェンリル、従魔にされる。が御主人様が弱すぎる

shadow

第1話

「フェンリル様、お手合わせ願います」


「ウォン」


人間が剣を構え、我に攻撃を仕掛けてくる。


「ワォォォォン!」


しかし、我の遠吠えを聞くとその人間は足を止め、カタカタとまるでスケルトンのように震え始める。


「うっ、、、うわぁぁ!」


それでも、我に向かってくる。蛮勇ではあるが、このような人間は嫌いではない。


「ウォフ」


だから我は一撃で気絶させる。我の遠吠えは相手の戦意を奪い、我へと服従させる物だ。本気ではないといえ、3割は力を出したのだ。それで耐えれたのだから、人間としては芯がある奴よ。


「人間よ、合格だ。貴様は何を望む?」


「私は、、、テイマーです。ですから、我が友となってくれる存在を望みます!」


この者は【従魔】にではなく、【友】にと言った。我は汗の臭いで嘘を見抜ける。この者は嘘なぞついていない。本心から友と言っている。


「ワォフ(リラを呼べ)」


「ワフ(承知)」


リラとは若い狼だ。まだ子狼であるが、この者となら一人前になることもできるだろう。


「テイマーよ、この狼はリラ。ワン(リラよ、この者と共に世界を見よ)」


「キャン(親分、ありがとう!)キャン!キャン!(人間、よろしくな!)」


「あの、フェンリル様これは、、、」


「ふっ、リラはお主を気に入ったのだ。、、、人間よ、リラを悲しませるなよ。リラはお主のパートナーだ。忘れるな」


人間は神妙な顔付きで我の話を聞いていた。こんな人間なら、我の家族は任せられる。


「人間、名前を教えて貰おうか」


「僕は、、、僕はレイです!」


「では、レイ。貴様は我等が狼の友となった。ソレを胆に命じろ、良いな」


そう言いながら、レイとリラを送り出す。二人にはきっと素晴らしい旅路が有るだろう。我は切に願う。


「ふぅ、疲れた」


「神狼様、お疲れ様です」


「「お疲れ様です」」


「ふむ、何時もすまないな」


「いえ、我々一同、神狼様の庇護かで生活させていただいているのです」


そう言うのは神狼の森にある村、人狼の里の村長だ。彼等は人狼と呼ばれる亜人であり、彼等も我の眷属だ。


「狼達の警戒で里は安全に保たれています。それに、彼等は我が人狼の一生の友ですので、勿論。人狼様が一番ですがね」


「ふむ、村長。帰りは大丈夫か?」


「我々は人狼です。いざというときは変身します。御安心下さい」


そう、人狼は変身できる。人狼の姿と人間の姿。人間の姿が老人でも、人狼にとっては経験豊富な狩人、我の言葉は無粋であったな。


「すまない、どうしても眷属には甘くなる。我の悪い癖だ。許してくれ」


「いえ、神狼様の気持ちは我等一同理解しています。、、、それでは」


村長はそれだけを述べて、里へと帰っていった。


(むっ、、、寝るか)


金色に輝く月が登り、辺りは月光に包まれる。


「ワォォォォン!」


最後の遠吠えをし、辺りの獣を寄せ付けぬようにし、我は眠りについた。

翌朝、また何時ものように眷属の狼達から巡回の報告を受け、朝が始まる。我は霊獣であり、食事は必要としない。だが、眷属達は違う。彼等は食事が必要だ。だが、心配はない。


「ほら、ご飯よ」


「すまぬな、ワォォン!(朝食が届いたぞ!)」


我の遠吠えで眷属の狼50匹が現れる。そして、この娘。テスラの作った朝食を食べさせて貰うのだ。、、、野生は忘れておらんぞ。狼達も里の農耕や土木を手伝い、幼い人狼達と共に狩りをし、狩の方法を教える。ギブアンドテイクだ。


「ねぇ、フェンリル。タマには出掛けてみない。森は私達人狼と、貴方の眷属の狼達が守ってくれるし、、、」


「駄目だ。我はこの森からは出られん、お前たち(我が眷属たち)でも、ドラゴン等には勝てんであろう。その時は我が出なくては」


「はぁ、心配性なんだから。なら、里まで送ってってよ、フェンリル」


「わかった」


テスラは赤子の時から何故か我の所に頻繁に来た。詳しく言うと、家から出かけて我の毛皮の中で寝てるのだ。我からしたら娘のような存在であり、我が唯一軽口を許した存在だ。


「里が、、、燃えてる」


「グルル、、、ワォォォォン!」


里は燃えていた火事などではない。人間達が入り込み、里を、森を燃やしていた。


「ワォォン!(人間どもを皆殺しにしろ!)」


「「「ワォォォォン!」」」


至る所から遠吠えが聞こえてくる。中には人狼達の遠吠えすらある。事実、ここからは虐殺だった。森を燃やしているとは言え、地の利は此方にある。それに回りは平原ではない事も災いした。


「このぉ!」


「ギャァァァア!」


そこら中から悲鳴や殺戮音が聞こえてくる。愚かだ、人間はやはり馬鹿な種族なのだろう。


(雨よ降れ)


我がそう念じると森一体に雨が降りだした。燃えた所はどうしようも無いが、これ以上燃え広がる事は無いだろう。


「神狼様、申し訳有りません。不貞なる者共の侵入を赦すとは」


「村長、無駄だ。冒険者とよばれる人間も入る森だ。どうしようもあるまいて」


その時だ。聞きなれた騒がしい声が聞こえてきた。


「村長、これを、、、」


「まさか、、、どうするつもりじゃテスラ」


テスラは先程の人間達の死体の1つを抱いて持ってきた。それは女の死体であり、腹は大きく膨れている。


「、、、人の子か、神狼様」


村長に言われた通り、魔法で調べる。


「、、、まだ息は有るが、母親が死んだのだ。さっさとこれも」


我は前足を上げ、潰そうとするがテスラが前に立ちはだかった。


「テスラ、どういうつもりだ」


「フェンリル、お願い。子供に罪はない、だから助けてあげて!」


方法が無いわけではない。だが、不可能だ。


「産まれた赤子なら良かった。だが、それはまだ産まれておらん。助けるには、禁術が必要なのだ。女の子宮へと移す、それしか方法がない。テスラ、お前は未来も捨てるのか!」


そう、女にとって誰の子かも判別できない子供を身籠る。それは恐ろしい事だ。それをテスラに


「、、、やって、私がこの女を殺したの。だから、私の責任なの!」


「テスラ、神狼様のお気持ちを」


「良い。わかった、テスラ。なら主を我の巫女とする。巫女は未婚であり、我と生活を共にする。良いか?」


村長はソレを聞くなり大喜びし、里へと帰っていった。


「うん、フェンリル。良いよ」


「神狼フェンリルの名の下に、テスラへ祝福を与えん。、、、魂よ、再びこの女のもとへと入れ、目覚めるには早すぎる、、、」


術を唱え終わり、女の死体を確認する。腹は萎み、何もない。


「成功したの、フェンリル」


「成功だ、一年もすればお前から我とお前の子供が産まれよう」


「へ? 」


「訳の判らぬ男の子よりも、我の子と判るほうが都合が良い。誰が神狼の子に異議を言える」


「何か、ごめんね。アタシみたいなのが奥さんとか、、、」


「気にするな。お前は既に我が巫女だ、そこで」


話を続けようとした所で村長が帰って来た。

なんと間の悪い男だろうか。いや、一人ではない里の民全員が現れた。


「神狼様、そしてテスラいや巫女様、我々人狼はあなた様方を御守りする事を誓います」


「誓います」


「「ワォォォォン!」」


狼たちも我等を祝福している。喜ばしいものだな、こう言うのも。


「ならば、我もお前達を守ると誓おう。神狼フェンリルの----の名において!」


我は何百年も前に神に付けられた名を放った。コレは祝福だ、神により作られた我による。最大限の祝福。


「神狼様」


「村長、皆……ごめんなさい」


「テスラ、お前が神狼様をお慕いしているのは我等村の一同理解している!神狼様、テスラを我等の家族をお願い致します」


「アォォォォォォン」


我は祝福の遠吠えを行い、テスラを背に乗せる。


「征くぞ」


「皆、ありがとう」


テスラの流す涙を、我は忘れる事はしないだろう。



















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