周三

不知火美月

1



いつも、何かに飢えていた――




暑い・・・食べたい。

何でもいい、苦しい、頭が痛い。

足の裏が熱い、膝がガクガクで歩けない。

もう嫌だ、止まろう。

寝転がって休めば治るかもしれない。


「はぁ、はぁ、はぁ」


熱い・・・お腹を出したのにさっきよりも暑くなる。

見えるのはどこまでも黒い地面。

変だな・・・ぐにゃぐにゃした物が地面から出ているよ。


「はぁー、はぁー、はぁー」


ぐにゃぐにゃぐにゃぐにゃ・・・

変だな・・・全部ぐにゃぐにゃ・・・

水なのか?カサカサで熱い口から舌をいくら伸ばしても冷には届かない。

何も無い、暑い・・・何も感じない。

歩か・・・ないと・・・


「君どうしたの!?大変!!すっごく熱くなってる!」


な・・・に?明るくて見えない・・・う、浮かび上がってるの?俺捕まった・・・?食べられるの・・・?






「熱中症ですね、もう少し遅かったら危なかったと思いますよ。大分痩せてますけど、体に異常は無いようです。お前ラッキーだったな!いい人に見つけて貰って、感謝するんだぞ?」


うわ!?何このオスの人間!何で急に俺の頭をぐちゃぐちゃにするの!?

すっごく嫌だ、普通初対面でそんな事する?

失礼にも程があるよ!


「よかったぁ、大事がなくて。先生ありがとうございました。さ、行こうか君」


暗くて狭い。ここはママといた所に似てて好き、安心する。ただ少し揺れるのが嫌い。


「君は野良なのにいい子だね。ママが人に餌でも貰ってたのかな?まだ子供だし返してあげたいけど、見つけるのは難しいかな・・・

ウチで飼ってあげたいんだけど、お父さんが猫アレルギーなんだよね・・・

でも大丈夫よ!私が責任もって飼い主を探してあげるからね。こう見えても顔広いのよ?最悪幼なじみもいるから、大舟に乗った気持ちでいてね!」




それからは人間の巣の中で生活をした。

これが案外快適で驚いた、ママは人間が危険だと言っていたけど、まぁそこそこかな。


小春こはる、猫のトイレ掃除忘れてるわよ!」


小春のママは厳しい、そこは人間も猫と同じらしい。


「聞いた?周三しゅうぞう、たまには掃除してくれてもいいと思わない?そうよね!周三は本当いい子ね」


小春だけは、いつもこっそり俺に周三しゅうぞうという。それが何かは知らない。



長い間ここで過ごし、俺は成猫になっていた。

そろそろ子孫を残しても良い頃だ。

そう思っていたある日、小春はいつもと違って目から水を出して俺を強く抱き締めた。

何回も周三と言ったがやっぱり何かは分からなかった。



次に日が昇った時、俺は知らない人間の巣に移された。

そこの人間達も、小春達と同じような事を繰り返して生きている。

何が楽しいのかは知らないが、そいつらは俺に周三とは言わない。

快適ではあるが、そろそろ巣の中でなく外で生きなくてはならないと、外を見る度俺の何かが言っていた。


そして、人間が巣から出た瞬間を狙って、俺は人間ではなく猫に、本来の自分に戻った。


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