雨粒にうつる恋

桜野 叶う

雨の中の

 ほおがほんのりあつい。ねつがほおにまで伝わってきていた。出火もとである心臓しんぞうの奥では、たき火のようにメラメラとほよおえていた。

 あつい。メラメラの炎がうまれるほどの熱いこい心をもっている楚愛そあ。つめたい雨にかさをさしながら、心は燃えていた。

 その相手とは、彼女のかよう高校の同級生、義洋ぎようだ。彼は、楚愛の前の席にすわる男子生徒で、高校生になって、はじめて声をかけてくれた。彼はかっこいい。スタイルがよくて、顔立ちも美しい。一目惚ひとめぼれだった。だが、それだけではない。さっしがよいというか、楚愛の存在によく気づき積極せっきょく的に話しかけてくれたり、いつもなにか関わってくる。いままでそんな人と出会ったことがなかった楚愛は、おどろいたし、うれしかった。それが毎日つみかさなって、燃えるような恋へと発展はってんした。楚愛はそれまで恋というものに無縁むえんだった。

 楚愛は、下を向いて歩いていた。顔をあげていると、はく息に心の内にめる炎がまざって、外へとにげげてしまう。秘めている炎は秘めているままでいたい。

 でも、下ばっかり向いていると呼吸が浅くなり苦しくなる。楚愛は、まっすぐに前を向いて、鼻でいっぱいに息をすう。そして、いっぱいに息をはく。それをくりかえす。呼吸こきゅうの音が耳や頭にひびく。

 すると、彼女のまわりには、球体がちらほら浮かんでいた。それは、水でできた透きとおる球体だった。

 見上げた楚愛は、少しこの目をうたがってしまった。これは、この世でおこることではなかった。ただ、幻想的で美しい。

 水の球体が浮いているかわりに、雨はっていなかった。つまり、この球体は雨のつぶが大きく球体なったものであるといえる。

 楚愛の目の前に、ひとつの球体がおりてきた。まるで、楚愛にふれてほしがっていたかのように。楚愛は、それにこたえるかのように、その球体に手のひら全面で球体におおいかぶせた。楚愛の手は、そのままいこまれるように、この中にはいっていった。水の球体はやはり水だった。形のない液体であり、この地にりゆく雨のつめたさだった。

 ひらいたままの楚愛の手は、ゆっくりととじていく。こんどはその手に吸いこまれるように球体が消えていった。こぶしをぎゅっとにぎって球体も完全に消えはてた。

 楚愛は両手をくみ、球体をえがくようにはなすと、球体があらわれた。片手をぎゅっとにぎり、パッとひらくとまた球体かあらわれた。あらわれた球体は、バランスよく配置はいちされた。服の布地ぬのじにえがかれるドット模様もようだ。

 楽しくなった楚愛は、ポン、ポン、ポン、とテンポよく球体たちをうみだす。

 うみだした球体たちをみてみると、そこには意中の義洋ぎようがうつしだされていた。

 楚愛はぎょっとして、内面ないめんあわてふためていた。そして、いぶかしんだ。なぜなら、ここまですべて、楚愛の頭の中でおもい描いていることが、現実に起きているからだ。球体にうつしだされている義洋もそうだ。楚愛はもういちど、球体をだして、義洋をうつしだした。まちがいない。楚愛は、とても不思議ふしぎ魔法まほう能力のうりょくかを手に入れてしまった。

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