第110話 詰所にて
「全て……リアム殿、分かりました」
「「!」俺の話……」
リアム様の有無を言わせない言動に、テオは動きが止まって、タロウと私はビクッとなった。
「「……?」」
アルバート様とロペス様がキョトンとしているってことは、やっぱり、エリオット様は誰にも話してないんだ。
「リアム副団長? あっ、テオ殿、話してなかったのか……すまない」
エリオット様がしまったと言う顔をした。
「いえ、エリオット様、いいんです……」
テオが
警備兵は部屋から出されたけど、アルバート様とロペス様はエリオット様の後ろで静かに成り行きを見守っている。タロウと私は話の邪魔にならないように、部屋の端っこに行って大人たちの話を静かに聞くことにした。
こっそり、ロペス様になぜ私服なのかと聞いたら、「人探しをする時は騎士団の制服より私服の方が目立たないからだよ」と言われた。そうか、ロペス様がタロウを探してくれていたんだ。ありがとうございます。
でも、ロペス様……ロペス様は珍しい水色の髪で綺麗な顔をしているから私服でも目立ちますよ……。
「では、エリオット副隊長、タロウの『あの話』について教えてください」
リアム様はそう言ってエリオット様に微笑みかけた。うわっ、背筋がゾクッと……冷たい水が流れた気がする。隣でタロウが背筋を伸ばした。
「ああ……タロウに初めて会った時、テオ殿から聞いたのだが……」
エリオット様はチラッとテオを見てから話し出した。黙って聞いていたリアム様が<迷い人>の言葉を聞いた時、
「何と言いました!? タロウが……」
「「なっ、<迷い人>!」タロウが!?」
リアム様とアルバート様達が、
エリオット様が話し終えた後、リアム様はテオにも話すように促す。
テオは、タロウのことを<迷い人>だと話したのはエリオット様だけですと断りをいれて、<大森林>でタロウが倒れていたことから話し出した――
母さんのことは言わずに、タロウがこの大陸には存在しない<ニホン>と言う国から来たことや、タロウに<迷い人>のことやこの国で生きて行く為に必要なことを教えたって。
アリスの従姉弟だと勘違いされても、都合が良いからそのままにしたこととか……テオ、頑張って!
テオの話が終わると、リアム様がゆっくりタロウを見た。
「……そうですか。テオ殿の話を聞く限り、タロウは<迷い人>で間違いないですね。タロウ、あなたは国から手厚い保護を受けられますが、<リッヒ王国>に保護を求めないのですか?」
「リアム様……テオにも教えてもらったけど、保護は求めません。俺、このままテオとアリスと一緒にいたいです!」
「「タロウ!!」私も!」
リアム様は、早急にタロウの後ろ盾になる必要があるから、今日中に各所へ通知を回しておきますと言う。
「タロウが、<迷い人>であることを周知されたくないなら、このままでも問題ないでしょう。それにしても……この国に<迷い人>が現れたのは何年ぶりでしょうねえ。フフ」
「うっ!?」
「「「……!」」」
リアム様がうっとりとタロウを見るのが怖い! タロウだけじゃなく、みんなも固まってしまって、エリオット様が「すまない……」と謝っているのが聞こえた。
◇◇◇
その後、誘拐犯達の供述と彼らがアイテムバッグに隠し持っていた書類で、隣国の商人の罪が明らかになった。
<リッヒ王国>から隣国<ナルク王国>に、誘拐の主犯として商人の引き渡しを要求する書状が送られ、商人が拘束されたそうです。
隣国にある商人の店や家に調査が入り、誘拐された子供の行方が分かって保護された子供もいたらしいけど、
「商人が捕まって、誘拐された子供が助けられたのは良かったけど、子供を買った貴族が罪にならないなんておかしいよ……」
「アリス、貴族が、孤児を保護する為に引き取ったと言ったら罪には問えないんだろう。売買した証拠がないんだからな」
商人の店で見つかった書類には、子供の外見の特徴と引き取り先が書かれていただけで、売買した金額が書かれていなかったとか。
「テオ、俺……モヤモヤする」
「私も……。でも、誘拐犯達は良くしゃべったね」
「ああ、<魔術研究所>で開発された自白剤を試したそうだ。捕まった誘拐犯達が、商人とやり取りしたメモや書類を自分達から出して、ペラペラしゃべったそうだぞ」
「「へえ~」」
自白剤って、聞かれたことに素直に話してしまう薬だよね。リアム様が言っていた、研究員が開発した薬って自白剤だったのか……そんな薬も研究しているんだ。
◇◇◇
タロウが無事に帰って来たので、翌日から店を開けて、私も学園に通い出した。
誘拐犯は全員捕まったけど、しばらくの間はテオとタロウの2人で店をする。タロウは1人でも大丈夫だって言うけど、何となく不安だからね。
学園のグループのみんなには、タロウのことを遠い親戚だと話していたから、休んでいた理由を話した。
「えっ! タロウが誘拐されたのですか!?」
「ええー! あいつらの仲間がまだいたの!? 許せない!」
「北門で、アリスを待っていた男の子だよね。誘拐されたのか……大変だったね」
お昼、ロレンツ様とユーゴにも話そうとしたら、ミアが誘拐されそうになったことを思い出したのかな? 凄い剣幕で話してくれて、私は
その数日後、ソフィア様がタロウに会いたいって言う。
「ねえ、アリス。誘拐犯を捕まえたタロウの話を聞きたいのだけど、時間を作ってもらえないかしら?」
「えっ、ソフィア様……」
「アリス、私も聞きたい~!」
「僕も話を聞きたいな。魔封じの手枷なんて見たことないからね~。タロウは、貴重な体験をしたよね」
ミア、ミハエル様まで……。
「えっと……タロウに聞いてみますね」
店に帰ってタロウから「……別に良いよ」って返事をもらい、週末の闇の曜日の午後、店でお茶会をすることになった。
◇◇◇
お茶会当日。ソフィア様とミハエル様が、最近出来たケーキ専門店の焼き菓子の詰め合わせを持って来てくれたので、初めはみんなで焼き菓子を楽しんでいた。
ソフィア様が遠慮しながらタロウに質問を始めると、ミアとミハエル様も加わって、タロウは質問攻め状態に……最後は、タロウが魔封じの手枷はアイテムバックで何とかなるんだと教えている。ふふ。
「なるほど。魔道具で魔法を封じられない為にはアイテムバッグが必要なのですね」
「ソフィア様、タロウの話を聞くと、魔封じの手枷だけじゃなくて縛られたロープも収納出来そうだね」
「「「!」」ミハエル様、賢いです~!」
本当に! 縛られたロープまでは思いつきませんでした。
「ミハエル様、俺が今から試してみるよ!」
「タロウ、私がロープを結んであげる~!」
ミア……楽しそうだね。
試した結果、両手を結んだロープもアイテムバッグに収納出来ることが分かり、かなり有意義なお茶会でした。
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