エリオット・フィリップスのつぶやき②

 ◆◆◆

 今回、早めにスタンピードの兆候が分かったので、その時点でダンジョンには偵察隊を配置している。


 先ほど、その偵察隊から3体の黒い魔物がダンジョンから出た後、数時間経過したが他の魔物が出て来る気配はないと連絡が来た。


 やはり、デーモンがスタンピードのボスだったのか。しかし、3体も現れるとは……何度もスタンピードを繰り返したダンジョンは、階層が増えて成長すると他国の文献に書かれていたが……<リッヒダンジョン>が大きくなっているのか?


 確かに、今回のスタンピードは前回と比べて魔物の数が圧倒的に多かった。だが、デーモンを倒したから終息に向かうだろう。


「アルバート、この分だと明日で討伐は終わりそうだな」


「はい、副隊長。明日、第一と第二の騎士団で残りの魔物を狩れば、後はギルドに任せても問題ないでしょう」


 そうだな。冒険者達も第二波の魔物に慣れて来ただろう。


 デーモンを倒した後、マルティネス様とリアム副団長が、好き勝手に魔法を撃ちながらウロウロされたのには困ったが、ランクAや闇属性の魔物を選んで倒していたのか、手のかかる魔物は少なくなった。


「副隊長、スタンピードを初めて体験しましたが、地方で起きる魔物の大量発生とは違って、ダンジョンから溢れて来る魔物の数が多いですね。こんなにも多いとは思いませんでした」


「ロペス……ああ、前回の時はまだ学園の生徒だったか。ロペス、今回、第一波が来た時点で、前回のスタンピードに比べて魔物の数がかなり多かったんだ」


「えっ! 副隊長、そうだったんですか……」


 第一・第二騎士団と宮廷魔術団とで協議した結果、第二波が来るまでに第一波の魔物の数を減らすことが決まり、かなり無理をした。


「今回はテオ殿達に助けられました。第二騎士団が、ポーションの数が不安だと言って来たので、こちらの備蓄しているポーションを回しましたが、アリスのポーションがあったから出来た訳で……」


「そうだな。アリスのポーションは、備蓄ポーション2本分の回復量だからな」


 『テオの薬屋』からは、合計700本の自家製ポーションが納品されたと聞いた。その回復効果は1,400本分のポーションと同等で、第一騎士団の一部の者にしか配っていない。


 アルバートは、アリスの作ったポーション……『テオの薬屋』の自家製ポーションの回復量を知らない者は不安で使いにくだろうから、知っている者だけに配給したそうだ。


 受け取った者達はかなり喜んだらしい。フフ、そうだろう。


「ええ。今回、第二騎士団に貸しが出来たのは良かったかと……。副隊長、今後はスタンピードを前提として、備蓄するポーションの数を増やした方が良いのでは?」


「そうだな。アルバート、提案しておこう」


 本当は、アリスのポーションを備蓄用に納品して欲しいのだが――ポーションは決まった大手の商人が納品している。宮廷魔術団にもマジックポーションを納品しているそうだ――上役は、商人と利害関係があるのか、他の薬屋に変えたいと言っても取り合わず、毎月、消費された数のポーションが納品される。


 まあ、利害関係があるなら、備蓄量を増やせと言ったら直ぐにでも許可するだろう。


「しかし、アリスには助かった。剣に『聖魔法』の付加をつけるとは……」


 テオ殿から渡された『聖魔法』が付加された剣を振るった途端とたん、手応えを感じた。デーモンは明らかに剣を嫌がったからな。


「ええ、副隊長、本当に助かりました。あれがなければ、最初のデーモンは何とかなったとして、2体同時に現れたデーモンを倒せていたかどうか……。しかし、アリスは『聖魔法』を使えたんですね……」


 今回の件で、アリスが『聖魔法』を使えることをアルバートとロペスに知られてしまったな。


「そうだな……」


 アルバート、アリスが聖女として教会に入っていないということは、そう言うことだ。言わなくても分かるだろう。


「この剣、まだキラキラ光っていますけど……。副隊長、この剣に付加された『聖魔法』は消えないんでしょうか?」


「ロペス……ある程度時間が経てば、消えるんじゃないか?」


「私もそう思います。テオ殿も、特に何も言っていませんでしたからね」


 アルバートもそう思うか。付加魔術師は、時間を掛けて属性を付け、魔法陣も描くと聞いた。騎士団の正装や鎧にも魔法陣や『付加魔法』が付いているが、破損しなければ、ほぼ消えることはない。


 だが、この剣に付けた『聖魔法』は、アリスが短時間で付けた属性だからな……。


「エリオット副隊長、もし『聖魔法』の付加が消えなかったら……いえ、今は消えていないのですから、この『聖魔法』の付いた片手剣は、物語に出て来る『聖剣』と同じですよね?」


「ロペス、確かに、今は『聖魔法』が付加された剣だが……」


 『聖剣』はこんなに簡単には作れないだろう。


「副隊長、アルバート様、『聖魔法』の付加が消えるまでは、この剣は『聖剣』ですよ!」

「ロペスの言いたいことも分かるが……だが、この剣が『聖剣』だと?」


 アルバートが自分の剣を鞘から抜いてまじまじと見ている。


「アルバート、刃が輝いているな……」

「副隊長……はい」


 私も鞘から剣を抜いて見るが、テオ殿から受け取った時と変わらず剣身はキラキラと輝いている。


「今、ここには3本もの『聖剣』があるんですよ!? 凄いですね。あっ、テオ殿とタロウの剣を合わせると5本か~」

「「!」」


 いや、ロペス、『聖剣』ではないだろう。アリスが付けた『聖魔法』の付加は消えるはずだ……たぶん。


 アルバートがこちらを見た。


「エリオット副隊長、秘密が増えましたね」


「……そうだな。お前達、アリスが『聖魔法』と『付加魔法』を使えることは絶対に秘密だ」


「「はい」承知しました」


 この剣にアリスが『聖魔法』を付加したことは秘密にする。特に『聖剣』だと騒ぐロペスには、ここでしっかり釘をさしておこう。


 マルティネス様とリアム副団長は、余計なことは言わないから大丈夫だろう。マルティネス様には、アリスの推薦状を書いてもらう時に4属性の話はしたから、秘密が1つ増えることになるだけだ。


 タロウのことを含めると、私が1番多くの秘密を抱えているが……フッ。


「では、報告書には『聖魔法』の付加については書かないでおきます。あの場にいた騎士は、私達3名だけですので問題ないでしょう。ですが、副隊長、タロウの『雷魔法』は記載しても宜しいですか?」


「ああ。アルバート、かまわない」


 あの『雷魔法』は、周りにも見られただろう。それに、デーモンに攻撃出来る魔法として報告する必要があるからな。使える者は少ないが……。


「あぁ~、この剣は、『聖魔法』が付与された剣だって言いたくなりますね。闇属性の魔物に試し切りもしたいですよ。フフ」


「「ロペス! 絶対に言うな!」」


 デーモンを倒して興奮しているのか、ロペスの口数がいつもより多い。


「副隊長、アルバート殿、誰にも言いませんよ。アリスには感謝していますから……」


 ロペスが、自分の剣を見つめながらそう言った。


 ああ、私も感謝している。


「そう言えば、副隊長、今回、私もロペスも『呪い』を受けませんでした。痛みのある弱体異常を受けましたが、アリスの『回復魔法』で治りました」


「はい、私も同じです。『呪い』でなくて運が良かったですよ」


「ああ、『呪い』はアリスが治してくれたんだろう。あの時、『聖魔法』と『回復魔法』を飛ばしてくれただろう?」


「「えっ……」副隊長?」


「フッ、私も治して貰ったからな。ああ、私が治っていることは秘密だぞ。周りが五月蠅くなるからな」


「「ええ!」」


 縁談の話が来たら面倒だからな。

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