第85話 2回目の『魔物討伐の実習』

 今日は2回目の魔物討伐の実習日。


 馬車から降りて、ロレンツ様から渡されたパーティー用のアイテムバッグを確認して、魔法の杖を出して自分に『身体強化』(そのまま弱いのでも良い気もするけど)を掛けなおす。


 ダンジョンの入口にいるグレース先生から、10階にあるワープ・クリスタルまで進んで、ワープで1階まで戻って来るように言われ、騎士科の3人の後ろをソフィア様と並んでダンジョンに入って行く。


 ◇

 前回のことを考えると、魔物は少ないだろうと思っていたらその通りで、5階への階段まであっという間に着いた。ここから、気を引き締めないとね。


 階段で、みんなで連携の確認をする。


「ここからは狼とゴブリンが2~3体で出て来る。開幕、僕とイーサンが魔物に『挑発』を入れるから、後衛の2人は魔物のタゲを取らないように魔法でHPを削って、ポールは魔法を受けた魔物から仕留めるように」


「「了解!」」「「はい」分かりました」


 ロレンツ様に返事をしたけど、ロレンツ様達はまだ狼やゴブリンを一太刀で倒せない。タゲを取らないように弱い攻撃魔法を撃つのは良いけど、ゴブリンメイジが現れたら……、


「あの……ロレンツ様、ゴブリンメイジが出て来て魔法の詠唱を始めたら、弱い攻撃魔法ではゴブリンメイジの詠唱を止められないと思います」


 ゴブリンの強さは魔物ランクEからDの個体差がある。だから、タゲを取らない弱い『風魔法E』程度では、ランクDのゴブリンメイジの詠唱を止められないかも。上手く口に命中すれば止められるかもしれないけど……。


「あっ、ゴブリンメイジか……確かに、魔法を止めないと手間取るかもね」


「でしたら……ゴブリンメイジが現れた時は、私とアリスで倒すつもりで強めの魔法を撃ちます。ロレンツ様、宜しいですか?」


「そうだな……ゴブリンメイジが現れたら、ソフィア様とアリスに頼むよ。後、ポール、2人の補助を頼む」

「「はい」」「了解」


 その後、魔法を撃つ度に、ほとんどタゲを取ってしまうソフィア様が「ごめんなさい。加減が難しいわね……」と、魔力を押さえるのに苦労していた。魔法の杖を使っているから、慣れるまでは仕方ないですよ。


 ◇

 7階へ向かう階段で、休憩を兼ねて昼食を取ることになったんだけど、イーサン様だけ干し肉を齧っていて、他のみんなはサンドパンを頬張っている。


「ぬお……お前達も作って来たのか」

「フフ、簡単だからイーサンも作れば良いのに」


 ロレンツ様は、寮の食堂で朝食を食べた後、テーブルにあったパンにハムを挟んで持って来たそうです。ポール様と一緒に作ったとか。


「だよね。イーサン、パンを半分に切って好きな具材を挟むだけだよ? 干し肉より絶対に美味しいからね」


 ……ポール様、良い肉で干し肉を作れば、オークハムやステーキより美味しいんですよ。ワイバーンの干し肉とかドラゴンの干し肉とか……ふふ、ドラゴンの干し肉は最高でした。言えないけど。


「ぬう……試したが、パンがひしゃげるんだ。ナイフの刃が小さいからだろうか……」


 両手に力が入り過ぎているんじゃないですか? イーサン様は小さい物を扱うのが苦手なのかも。


 イーサン様だけ干し肉なのが可哀そうで、バッグからソースに漬けてあぶったオークハムのサンドパンを差し出した。


「イーサン様、多めに持って来たので良かったら1つどうぞ。ダンジョン用に改良したサンドパンです」


「おぉ……アリス、良いのか? 有難い!」


 イーサン様はサンドパンを受け取ると、直ぐにかじりついている。


「……んん!? 旨い! アリス、旨いぞ!」


「ふふ、ありがとうございます」


 『料理』スキルのお陰だけど嬉しい。


「えっ、いつものじゃなくに改良したサンドパンだって? アリス、僕も食べたいな……」


「アリス、どのように改良したのか聞きたいわ。味見もしたいから、今度、お昼に持って来てくれないかしら?」


 えっ、ロレンツ様、ソフィア様も……オークハムしか挟んでいないから味見するほどでもないですよ。


 オークハムをソースに漬けた後、ソースがこぼれないように炙っているから、味がしっかり付いていて香ばしいけどね。チーズも挟もうか悩んだけど、味がくどくなりそうだったからハムだけにしたの。


「ああ、それが良いね。僕からもお願いするよ。お礼は……食堂のデザートでいいかな?」

「私もデザートをお礼にするわね。アリス、デザート2個なら食べられるでしょ?」


 ロレンツ様とソフィア様が、美味しそうに食べるイーサン様をじっと見ながら言う。


 食堂の好きなデザートを選んで良いと言うけど、デザートを2個も……食べられるけど。ダンジョン用サンドパンなら、まだ2~3個バッグに入っているし。


「……はい、分かりました。週明けの火の曜日のお昼に、ダンジョン用のサンドパンを持っていきますね」

「うん。アリス、楽しみにしているよ」

「ええ、アリス、お願いね」


 するとポール様が申し訳なさそうに、「アリス、僕も食べてみたいんだけど、持って来るのが大変かな?」と言う。


 う~ん、ロレンツ様達のサンドパンを持って行くのに、ポール様はダメですとか断れませんよ……。


 自分用のアイテムバッグを持っているから大丈夫ですと言いながら、背中側に回しているバッグを見せると、ポール様まで「お礼はデザートでいいかな?」と言う。う~ん、食堂のデザート3個は……キツイな。


「俺も! アリス、俺の分も頼んでいいか? 今日の礼と合わせて、食堂のデザートを全種類ご馳走する!」

「「イーサン……」今、食べているよね?」

「「……」」


 『全種類』……素敵な響きですが、イーサン様、そんなには食べられません。あっ、ミアと半分ずつにしたら食べられるかな?


 バッグにあるダンジョン用サンドパンだけじゃ足りないから、帰ったら作らないとね。


 きっと、ユーゴやミアも食べるって言うだろうな~。そうなるとミハエル様の分もいるよね。

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