第77話 内定者の発表

 魔術大会が終わった。


 優勝したのが、リカルド様が負けた『火魔法』の使い手の3年生だったので、リカルド様とのあの試合は実質の決勝戦だったと言う声が聞こえて来た。うん、私もそう思う。


 リカルド様の対戦相手が、あの3年生でなければ準決勝に進めたかもしれないけど、1回戦であの3年生と当たっていたら初戦で負けていた訳で……リカルド様は『運』が良かった? それとも悪かったの? どっちだろう。


 ◇◇◇

 大会が終わって数日後の朝、玄関ホールに多くの生徒が集まっている。あぁ、掲示板に騎士団と宮廷魔術師の内定者の名前が貼り出されたんだ。


 去年は、宮廷魔術師の内定者に相談役のウィルバート様の名前がないか探したけど、今年の3年生に知り合いはいないから騒いでいる生徒達の中をかき分けて教室に向かった。


「「アリス!」おはよう」


 教室に入ると、ソフィア様とミハエル様が慌ててこっちに来る。何かあったのかな?


「ソフィア様、ミハエル様、おはようございます」

「アリス、掲示板を見てないの!?」

「えっ、掲示板ですか? ソフィア様、今年の3年生に知り合いはいないので見てないです」

「アリス! 良く聞いて……」

「ミハエル様?」


 ソフィア様とミハエル様が珍しく興奮している。まさか、推薦で出場したリカルド様の名前があったとか? でも、内定が出るのは3年生になってからだよね。


「アリス、今回の宮廷魔術師の内定者にアリスの名前があったんだよ! 3年生の内定者の下に【2年魔術科Bクラス・アリス】ってね。おめでとう!」


「ミハエル様……えっ、ええー!? 私の名前が……なぜ?」


 どうして? まだ2年生なのに……一瞬で頭の中がゴチャゴチャになった。


「そうなのよ。アリスは魔術大会にも出ていないのに驚いたわ。アリス、おめでとう! やっぱりマルティネス様が……だとすると、アリスは別枠の扱いかしら……」


 ソフィア様の言葉が、ブツブツと小声になっていったから聞き取れなかったけど……私の内定発表は3年生で公表されると思っていた。


 『聖魔法』のことは、まだ教会に知られてないのに……先に、宮廷魔術団が後ろ盾になっているって公表しないとダメなのかな?


 ソフィア様たちと話している途中でミアが登校してきて、私を見るなり「アリス、凄いね。おめでとう~!」と言ってくれる。続いて周りのクラスメイトからも「おめでとう」の声が……。


「あ、ありがとうございます……」


 うっ、恥ずかしい……。


 正当な理由で――強い魔法と魔力を持つ宮廷魔術師として内定をもらったんじゃなく、「教会対策の為と、レオおじいちゃんの”お茶くみ係”なんです」とは言えない。


 ◇

 お昼、食堂でロレンツ様とユーゴからもおめでとうと言われた。3年生の騎士科A・Bクラスの騎士団内定は95%程で、今回、騎士科のCクラスからは騎士の内定をもらった3年生はいなかったそうです。


「2年生で内定通知が出るなんて、聞いたことがないよ」


「ロレンツ様、2年生で内定通知が出たことは過去にもあります。かなり前ですけど、図書室にある宮廷魔術師の内定名簿に記録されていましたわ」


 ソフィア様が、図書室には騎士団と宮廷魔術師に内定した生徒の名簿と、<魔術研究所>の研究員に採用された生徒の名簿があると教えてくれた。


「じゃあ、兄の名前もそこに記録されているんだね。<魔術研究所>の研究員に採用された人は、担任から書類を渡されて発表されないからね」


 騎士団と宮廷魔術師に内定をもらった生徒は、翌年『特別科』に進むんだけど、研究員に採用された生徒は、翌月の4の月から<魔術研究所>で働くそうです。そこで先輩の助手をしながら自分の研究を続けるんだって。


「アリスの魔法って『風魔法』と『回復魔法』だよな……アリスの『風魔法』は、『風の貴公子』以上じゃないから内定がもらえたのは『回復魔法』を使えるからか?」


「ユーゴ、この年代で『回復魔法』が使える人材は貴重なんだよ。高ランクの『回復魔法』の使い手に育つ可能性があるからね。だから宮廷魔術団はアリスを内定したんだと思うよ」


 そうなんだ……ミハエル様が言うには、『回復魔法』を使える宮廷魔術師でも、『回復魔法B』の範囲魔法『エリアヒール』を使える魔術師は少ないそうです。


 『スキル書』で覚えた『回復魔法』は、ある程度魔力を持っていれば『C』まで育つけど、『B』まで育つ人が少なくて、10人に1人の割合だとか。


 範囲魔法……あっ、ドラゴン戦の時、無意識に使った気がする。テオに使った『ヒール』が、周りの騎士様まで白く光っていた。アレは……見られたかもね。



 昼食を食べ終わる頃、スッと誰かが横に立った。


「ねえ、アリスさん。どうして2年生の貴方が宮廷魔術師に内定されたのかしら?」


 見上げると、真っ赤な髪の大きな茶色い瞳の令嬢が私を見ている。


「えっ、スカーレット……マーフィー様……!?」


 危ない……余りにも突然すぎて、名前呼びしそうになったよ。


「アリスさん、スカーレットで良くてよ。お話が聞きたいから座らせてもらうわね」


「えっ……」

「「「……」」」


 私が返事をする前にスカーレット様は、私の向かい側に座るミアを奥に押しやって目の前に座った。


 大人8人でもゆったりと使える広いテーブルに、6人で座っているから余裕はあるけど……。


 ユーゴが、「ゲッ……」と声が聞こえそうな顔をしてこっちを見ている。そんな顔したらダメだよ。


「アリス、僕も話が聞きたいな」


 ん? 後ろから聞こえた声の主を見上げると、


「えっ! リカルド様……」

「うっそ~! アリス、リカルド様まで来たよ!」

「マジか!」

「「「……!」」」


 ミア、ユーゴ……聞こえているよ。貴族のロレンツ様達3人は固まった。

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