第76話 剣術大会と魔術大会③

 午前の剣術大会が終わると、昼を挟んで午後からは魔術大会。


 魔術大会は、広い競技場を来賓席から見て、左右2面に分けて試合をし、決勝戦は一面を使って行われる。


 毎年、数名しか宮廷魔術師の内定をもらえないから、大会に出場する3年生達は、来賓席にいる宮廷魔術師の目に留まろうと、派手な魔法をぶつけ合ってアプローチする……広い場所が必要になるよね。


 試合で放たれた魔法は、炎や爆風が観覧席まで届かないように、競技場と間に結界が張られていて安全なんだけど音は聞こえるの。


「やっぱり、リカルド様の応援だよね~! アリス狙いで、食堂でご一緒したことあるからね~」

「えっ! ミア、それは違うよ……」


 リカルド様は、レオおじいちゃん狙いだって分かっているくせに~。


「ふふ、ミア、冗談は程ほどにね。リカルド様とは、年少科から同じ魔法演習の授業を受けていますからね。来年はライバルですけど、今日は私も応援しますよ」


 そっか、来年は魔術大会に出るみんながソフィア様のライバルになるんだ。


「フフ、2年の魔術科は皆、リカルド様を応援するんじゃないかな~。唯一、推薦された2年生だしね」

「「そうですよね」~」


 ミハエル様の言う通りだと思います。


 リカルド様が推薦で魔術大会に参加するって発表があった後、魔法演習の授業の時、スカーレット様は悔しそうな顔をしていた。スカーレット様も出たかったんだろうなぁ……。


「勿論、僕も『風の貴公子』を応援するよ。アリスも応援するんだろ?」

「えっ、はい……」


 私もリカルド様を応援しますよ。わざわざ店までポーションを買いに来てくれたしね。


 3年の魔術科の先生が出て来て、『魔術大会を始めます』の声を合図に、競技場に4人の生徒が現れた――その中にリカルド様の姿が見える。


『ウオオォーー!!』『キャーーッ!! リカルド様~!』


 2年生が全員立ち上がって声援を送る。黄色い声が響いて……耳がキーンとして痛い。隣のミアまで「キャー!」って叫んでいるし……周りに釣られた?


 耳を押さえて周りを見ると、1年生がいる観覧席からも立ち上がって応援している生徒がいる。


『『キャ~!』リカルド様~!』


 凄い人気……。


 審判の先生2人が、試合に出る4人の生徒に何か話している。


 4人の生徒が前方の来賓席に向かって挨拶をして、それぞれ配置に着くと、観覧席が静かになった……ドキドキしてきたよ。


 配置に着いた生徒が魔法の杖を手に持って審判の先生に見せる。それを確認した審判の先生が、来賓席近くにいる先生に合図を送った。


『では、始めー!』


 始まった――右側の試合会場にいるリカルド様の試合、相手の3年生も『風魔法』の使い手みたいで、お互いランクD程度の『風魔法』を撃って牽制けんせいし合う。


「同じ『風魔法』だと、どちらの魔力が強いかが分かりますね……」


「ああ、流石さすが『風の貴公子』と言われるだけあるね。そろそろ見せ場かな……」


「ええ、そうですわね! リカルド様には来年もありますけど、3年生の方がリアム副団長にアプローチ出来るのは今だけですからね……」


 ソフィア様は目をキラキラさせて感情を押さえているみたいだけど、ミハエル様はいつもより冷静に見える。


「キャ~! リカルド様、行けー!」


 ミアは……大声を出して応援しているよ。


 3年生が放ったCランクの『風魔法ウインドエッジ』を、リカルド様は同ランクの『ウインドウォール』で風の壁を作って防ぎ、即座に3年生が放った魔法と同じ『ウインドエッジ』を返して3年生を倒した。凄い!


『勝者、リカルド・フェルナンデス!』


『ウオオォーー!!』『キャーーッ!! リカルド様~!』


 審判の声と同時に大きな拍手と声援が聞こえて、周りが興奮して飛び上がって喜んでいる。


「フフ、同じ魔法を使って止めを刺すとは……」

「ええ、『風の貴公子』はもっと強力な魔法を使えるのに、わざとですね」

「あれかな……来賓席に、魔力の強さをアピールしたかったのかな?」

「MPを、温存したのかも知れません……」

「ああ、なるほどね。ソフィア様の言う通りだね」


 ミハエル様とソフィア様はとても冷静です。


 ミハエル様が言う"魔力の強さ"とは――例えば、ランクDの『エアーカッター』を撃つと、個人のMP量と知力でも左右されるけど、スキル『風魔法D』を持つ人と『風魔法B』の人では、同じ『エアーカッター』でも威力が違ってくるんだって。


「キャ~! アリス、リカルド様が勝ったよ!」

「うん、凄いね」


 ミア……そんなに大声を出したら、声がかすれて喉が痛くなるよ。


 リカルド様は、レオおじいちゃんに見せた強力な竜巻の魔法を使わなかった。ソフィア様はMPを温存したって言っていたけど、あれを見せたらリアム様の目に留まるんじゃないのかな?


 あっ、リカルド様は宮廷魔術師に内々定しているから、もう良いのか。


 ◇

 その後、リカルド様は3年生相手に準々決勝まで進んだ。


 2年生で勝ち上がったんだから凄いよね。準々決勝で対戦した相手は、『火魔法』の使い手(去年の推薦者)だった。


 お互いにポーションやマジックポーションを飲みながら、白熱した魔法の打ち合いが続くからギュッと手に力が入る。


 遂に、リカルド様が『ファイヤーバースト』を避け切れずに倒れてしまった。あっ、リカルド様が……立ち上がれない。ポーションを使い切ってしまったのかな?


『そこまで! 勝者――』


 審判の声が響く。


『うぐぐ、ウオオオーー!! リカルド様ー!!』

『イヤーー!』


 周りが……みんな心を1つにしてリカルド様を応援していたから、悲痛な叫び声に包まれる。


『リカルド様を傷つけないでー!』


 泣いている令嬢も多かった。


「ふえぇ……リカルド様ぁ~。ぐすっ、リカルド様~!」

「「……」」


 隣でミアも泣いていて、ソフィア様とミハエル様は黙って競技場の中央をじっと見ている。


 リカルド様は審判から渡されたポーションを飲むと、立ち上がって来賓席と観覧席に頭を下げた。リカルド様……悔しいだろうな。


 ソフィア様は手をギュッと握っていて、ミハエル様は良い試合だったと拍手を送っている。ミアと私も手を上げて拍手をする……感動したな。


 ん……リカルド様の相手の3年生は去年の推薦者。って、ことは……宮廷魔術師に内々定していて、リカルド様も推薦を受けて内々定しているから、これって未来の宮廷魔術師同士の試合だよね?

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