テオのつぶやき

◆     ◆     ◆

 ドンドン! ドンドンドン!


 夜中、扉を叩く音に起こされた。眠い目をこすりながら、ベッドから這い出て玄関へ向かうと、聞き覚えのある声がする……。


 ドンドン! ドンドンドン!


『テオ! 私、サユリよ! いるんでしょ? テオ、お願い開けて!』


 ガチャッ


「うるさいな~。こんな時間に……サユリ? 久しぶりだな。どうしたんだ? ふぁ~~」


 そこには、フードを深く被った元冒険者パーティーのメンバーのサユリが立っていた。今にも泣き出しそうな顔をしている。その腕には、生まれて間もない赤ちゃんを大切そうに抱いて……


『テオ、お願い! この子を、アリスを預かって欲しいの。私、今追われていて……この子を巻き込みたくないの……テオにしか頼めないのよ。必ず、アリスを迎えに来るから……』


「追われているだって? おいおい、何があったんだ?」


 サユリは、話せば俺も巻き込んでしまうと言って話そうとしない。


『テオ、お願い……。この子を……私のアリスを預かって』


 俺の手に赤ちゃんを渡すと、彼女は名残惜しそうに赤ちゃんを見つめる。そして、俺の肩に彼女のバッグを掛け、暗闇の中へと消えて行った。



 ◆     ◆     ◆


 久しぶりに、あの夢を見た。アリスが俺の所に来た時の夢だ。


 『必ずアリスを迎えに来るから』と言って、アリスを愛おしく見つめていたのに……何年経っても音沙汰がない。


 信用できる冒険者に依頼して、サユリの行方を詳しく調べてもらった。どうやら、大陸の東にある<ブラージニア王国>で、政権争いに巻き込まれて命を落としたらしい。それ以上は調べることが出来なかったと報告を受けた。


 サユリは、『魔女』と呼ばれるぐらい魔法に優れていた。その魔力に目を付けられたんだろう。アリスもサユリの血を受け継いだようで、俺が知っているだけで『4属性魔法』『回復魔法』『聖魔法』が使える。『浄化魔法』も、だったな……他にもスキルがある気がするから、迂闊うかつにステータスの鑑定はしない方が良い。父親の能力も受け継いでいるかも知れんからな。


 ただ、アリスの父親は誰なのか分かっていない。サユリは誰にも言わなかったようで、もしかすると……父親自身も自分の子供がいるとは知らない可能性がある。そうじゃなきゃ、こんなに可愛いアリスを放ってはおかないだろう。


 アリスはもうすぐ10歳だ。教会で『鑑定の儀』を受けたいと言っているが、アリスのステータスは他人に見せない方がいい。あれだけの魔法のスキルを持っていれば、攫われる可能性が出て来るからな。それに、『聖魔法』を持っていることを教会に知られれば、『聖女』として引き取ると言うだろう。


『え~! それはスキルレベルの高い人だけじゃないの? 嫌だ! テオと一緒にいたい……教会に行きたくない。聖女様になんてなりたくないから!』


 俺と一緒に? ぐううっ、胸がギューっと苦しくなってきた……アリス、可愛すぎるぞ……。


『ねえ、テオ。胸を抑えているけど、痛いの? ポーション飲む?』


 アリス、ポーションはいらん。いつものことだ……すぐに治まるからな。



 サユリのことはアリスに言ってないが、いつか伝えないとな。母親が死んだと言ったら悲しむだろうか……アリスの悲しむ顔は見たくないな。


 アリスは、12歳で冒険者になると言っているから、その時に話そうか。アリスが冒険者になったら、俺がアリスとパーティーを組むぞ。アリスは、どんどん可愛くなるからな~。変な奴が寄って来ないように、サユリに代わって俺がアリスを守る!



 ◆    ◆    ◆


 うぅ、アリスの泣いている顔が見える……。アリス……どうした? なんで泣いているんだ……


『テオォ……すぐに手当てをするから、もう大丈夫よ……うぅ、グスッ』


 ん? あぁ……そうか、ここはダンジョンで、天井が崩れて来たんだった……。俺は脚を挟まれて……アリスのポーションを飲んだが動けず、その後は……分からん。


 アリスを撫でてやりたいんだが……手が痺れて動かん。全身が痛くて……これはマズイな……うぐっ、ゴクッ、ゴクッ……


 アリスがポーションを飲ませてくれたのか? あぁ、身体の痛みが消えていく……。


「あぁ……。アリス、来てくれたのか……ありがとうな」

『テオ、まだだよ! グスッ』


 アリスが抱き着いて回復魔法を掛けてくれた……一気に痺れや痛みが消える。うおっ、体が光った……聖魔法まで掛けてくれたのか? 浄化魔法も掛けていそうだ。ハハ、アリスの魔法は凄いな。


 アリスが、心配そうに痛い所はないかと聞くが、アリスのお陰ですっかり回復した。さっきまでの痛みがウソのようだ。


「ああ。アリスが治してくれたから、もうどこも痛くないぞ。ありがとな」


 アリスを抱きあげ、そのままダンジョンから出ることにした。周りが瓦礫ばかりで危ないからな。ん? アリスが恥ずかしそうに何か言っている……可愛いな。


 エリオット様達がアリスを連れて来てくれたのか。アリスが来なかったら、俺は助からなかったかもな……迷惑を掛けて申し訳ない。


 ◆

 家に戻って、部屋で寝る準備をしていたら、微かに足音が聞こえた。アリスか……暫く待ったがノックはなく、小さな声が聞こえた。


『テオ……眠れないの……』


 慌ててドアを開けると、真っ赤な目をしたアリスが部屋の前に立っていた。泣いていたのか? 目がれている……。


「ああ、アリス……心配させて悪かったな。おいで、今日は一緒に寝よう」

『うん……』


 アリスはベッドに入ると、俺にしがみついてきた。アリスが寝るまで頭を撫でてやる。


 泣かせてしまった……ごめんな、アリス。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る