マルティネスのつぶやき


 <王都リッヒ>を出発して4日目。討伐部隊は、<リッヒ王国>の北の山脈から西に流れる河を越えてデイル伯爵領の街に到着した。


 街の北側には、<北の帝国>との国境になる険しい山々が連なっているが、強い魔物が住む険しい山々を行き来する者などおらず、それ故、山の幸は豊富だ。時折、猟師や依頼を受けた冒険者が、山の幸を求めて足を踏み入れる。


 今回、山でゴーレムが大量発生していると知らせたのは、依頼を受けて山に入った冒険者達だった。


 街に到着した討伐部隊は、物資を補給した後、直ぐにゴーレムの討伐へと向かった。



 ※    ※    ※


「マルティネス様、休憩を取らなくて良かったのですか?」


「リアム、さっさと終わらせて帰るんじゃ」


「マルティネス様、来たばかりですよ」

「五月蠅いわ!」


 むー、こやつはいつも一言多い。しかし、アンドレア王め、わしをこき使いよって……。


「マルティネス様、第一騎士団のアルバート殿が来られましたよ」


 なんじゃ? まだ山にも入っておらんのに、エリオットの部下が馬を飛ばして来よった。


「マルティネス殿、平地にゴーレムが現れました。至急、ヘンリー隊長の元へお越しください」


「なんじゃと……それほど大量発生しておるのか。リアム、行くぞ」

「はい」


 ゴーレムが平地まで下りて来るなど初めて聞いたわ。これは……数が多そうじゃな。


「<王都リッヒ>で打ち合わせた通り、第一騎士団と宮廷魔術団でパーティーを組んでゴーレム討伐にあたります。マルティネス団長、よろしいですか?」


「かまわん。ヘンリー隊長、さっさと終わらせるぞ」


「では、マルティネス団長、明日の早朝からゴーレムの討伐を始めます」


「何を言っておる! 今からじゃ!」


 明日からなどと、のんきな事を言いよって……このまま寝たら満タンのMPが勿体ないではないか! 半分は使うぞ。



◇◇◇

 ふ~む、ゴーレムがこれほど大量に発生しておるとは……やっと、山の中腹まで来たが、皆、薬を使い切ったようで進みが遅くなったのぉ。


 日が傾いて直ぐに野営の指示が出たが、仕方ない。魔術師達のMPが無くなれば、騎士達だけでゴーレムを倒すのは効率が悪いからのぉ。


「マルティネス団長――!」


 誰じゃ、叫んでおるのは……騎士団か。


「マルティネス団長、アイアンゴーレムが現れました! 隊長より、至急討伐の準備をとの事です」


「むっ、アイアンゴーレムだと……皆のMPが尽きた頃に現れるとは」


 MPを50程残している者が数人おれば……おらんじゃろうな。マジックポーションは既に使い果たしておるし……。


「マルティネス様、私のMP残量は――計算では中レベルの魔法が後1回程です」


 こやつ、中レベルを撃てるだけMPを残しているとは……だが、アイアンゴーレムを倒すには足りぬ。


「リアム、もう少し配分を考えて魔法を使え」

流石さすが、マルティネス様。MPを温存されているのですね」

「……わしも無いんじゃ。リアム、マジックポーションを隠し持っておらんのか?」

「……持っていません」

 

 リアムよ、わしのフォローをするのがお前の仕事じゃ。予備のポーションを持っておらぬとは……まだまだじゃな。


 第一騎士団の所へ行き、ヘンリー隊長とエリオットに撤退する事を勧めると、アルバートが淡い青紫のビンを出して来よった。


「マルティネス様、宜しければ試して頂きたいマジックポーションがあります。MPの回復量が分からない試作品なのですが……」


 何……どこの錬金術師が作ったマジックポーションを手に入れたんじゃ。


「アルバート殿! マルティネス様に試作品を飲ませようとは、何かあったらどうするのですか!」


 リアム、五月蠅いわい。普通は野菜汁のような深緑色をしているのに、これは……淡い綺麗な青紫色のマジックポーションじゃのぉ。


「ほお~、試作品のマジックポーションじゃと? どれ、試してやろう」

「マルティネス様、お止め下さい!」


 リアム、エリオットの部下が、わしに変な物を出す訳がなかろう。ゴクゴク……むっ、不味くない! 優しい香りがするのぉ。


「どれ、MPの回復量を見てみようかの……」


 名前 レオナルド・マルティネス 

 年齢   72歳

 HP   453/575

 MP   202/1082


「何と! MPが200も回復しておるわ! アルバート、このマジックポーションはどこの錬金術師が作ったんじゃ?」


 むむ、エリオットの部下が最高級のマジックポーションを隠し持っていたとは! お主、リアムより出来るのお!


「なっ、マルティネス様、100ではなく200も回復したんですか!? これを作った錬金術師を、宮廷魔術団で確保しておかないと!」


「それが……そのマジックポーションは、試作品として譲り受けただけなので、どなたが作ったのか聞いておりません」


 そんな訳なかろう! アルバートめ、隠さずに言わぬか!


「アルバート殿、これを作った錬金術師を見つけなければなりません。これを届けた薬屋を教えてください!」


 うむ。リアムに任せておけば、錬金術師を探し出すじゃろう。


「そんな事より、マルティネス様。MPが回復したのでしたら、さっさとアイアンゴーレムを倒しに行きましょう」


 むっ、エリオットめ……こやつ、誰が作ったのか知っておるな。まあ良いわ、試作品ならその内に出回るじゃろう。


「うむ……アイアンゴーレムを沈めに行こうかの。リアム、行くぞ。エリオット、アルバートも付いて来い」


「はい」「「ハッ!」」


「マルティネス団長、よろしくお願いします」


 ヘンリー隊長、お主に言われずとも速攻で倒してやるわ。MPが回復したからのぉ。


「ヘンリー隊長、任せておけ。早く終わらせて帰るぞ。アリスのお茶が飲みたいからのぉ~」


「お茶……?」

「「「……」」」



 ◇◇◇

 ゴーレムの討伐がやっと終わったわい。デイル領の街で1泊して<王都リッヒ>に帰る事になったが……そうじゃ! アリスに土産を買って帰ろうかの。何が良いかの~。アルバートに、デイル領の特産品を聞いて店を見て回っておったら、リアムが余計な事を言う。


「マルティネス様、お土産なんて……旅行に来た訳ではないですよ」


 リアムよ……王都を出る時、アリスはわしを見送りに来てくれたんじゃよ? 土産の1つぐらい買って帰るのは当たり前じゃ! 愚か者め。


「リアム……お前は、それだからモテないんじゃ」


「マ、マルティネス様……」


 可愛い子には、いつでも優しく思いやりを持って孫のように接するんじゃ。ちょっと、違うかの? リアムよ、土産を買うのは、わしがアリスの喜ぶ顔を見たいだけじゃ……あの顔を思い浮かべるだけで元気になるわい。フォフォフォ。


 ◇◇◇

 デイル領の街を出発して4日目、日が暮れて、やっと<王都リッヒ>のあかりが見えて来た……王都を出た時は朝夕が肌寒い程度じゃったが、もうすっかり冬じゃのぉ。


 この時間、『テオの薬屋』はもう閉まっておるな。明日の朝一番にアリスのお茶を飲みに行こうかの。


「リアムよ、わしはゴーレム討伐を頑張ったから、腰痛が酷くなってもう動けぬ。明日のアンドレア王との謁見はお前が行け。報告も任せたぞ」


「マルティネス様……今、ピンピンしているではないですか」


「あ~~、段々と痛みが酷くなってきたのお。アイタタ……帰ったら寝込むから後は頼んだぞ。分かったな? リアム」


「えっ……マルティネス様?」


 これでよし! 明日のアリスのお茶が楽しみじゃ~。






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