第42話 お姫様抱っこ
「とりあえず日本エリアに行こう」
トッシュは、自転車にまたがったところで、
女性陣が軒下から動いていないことに気付いた。
「どうした?」
「あの、ご主人様……」
ルクティがレインとシルの下半身を、手のひらで指し示す。
「お二人は着物なので自転車に乗れません」
「あ……」
完全に作戦ミスだった。着物を借りて持ち帰るのではなく、現地で着替えるべきだったのだ。
「わたしは大丈夫だよ!」
シルがウサギの人形を頭上に掲げた。人形は光り輝き霧のように消える。シルの幼い体が空中に浮くと発光してシルエットのみになり、クルクルと回転しだす。
どこからともなくリボンのような物が出てきてシルの体を包み、ピカピカッと光る度に、フリフリのコスチュームに変化していく。
魔法少女の変身シーンみたいなのが始まり、そして、終わる頃には、シルの姿はウサギの着ぐるみに包まれていた。
ぬいぐるみを着ぐるみに変化させて装着し、身体能力を強化するのがシルのスキルだ。長い耳がピコピコッと揺れた。
「スキルを解除したら着物に戻るよ」
「レンタル品だから、戻ってくれなかったら困る。あとはレインか」
けして嫌らしい意味合いはないのだがトッシュはレインの下半身を見つめた。花柄の綺麗な着物だ。どう見ても自転車には乗れない。
レインはもじもじと内ももを擦り合わせた。
セックスすると思っていたら節句するだったのには、残念なような、ほっとしたような複雑な気持ちだが、この状況を利用しない手はない。
かしこさ150の幼女は、すぐに最適解を導き出した。たくみな話術で誘導したから、この場に居る者は、すっかり彼女がかしこさ150であることを忘れている。
「だっこー」
足を開くことができないんだから、そう、お姫様だっこしかないのだ。
レインはちょこちょこっと短い歩幅でトッシュに近づき、その胸に体の側面を晒して、肩をそっと当てた。
さあ、お姫様だっこして!
「そうするしかないか。ちょっと膝曲げて」
「うん!」
トッシュはレインをお姫様抱っこした。
「では、行ってらっしゃいませ」
ぺこりと頭を下げたメイドに見送られ、トッシュ達は日本に向けて出発した。
レインはどきどきしていた。なにせ、女の子なら一度は憧れるお姫様抱っこだ。大好きなトッシュの胸に抱かれて、きっと素敵なひとときが――。
なんてことはなかった。
速いのだ。移動が。
ウサギの着ぐるみを着たシルが原動機付き自転車並の速度でピョンピョン跳ねて進むし、トッシュもそれに合わせた速度で走った。
レインの耳に聞こえるのは風切り音ばかり。
トッシュが揺らさないように配慮してくれているけど、かなり揺れる。
あとトッシュは前を向いているから、レインの位置からは顎しか見えない。
(ぜ、ぜんぜん、楽しくない。お姫様抱っこって、もっとドキドキして楽しいものだと思ったのに、なんか、揺れて、むしろ怖い……!)
かしこさ150の誤算であった。
だが、日本に着いて、降ろされたとき。
「あっ……」
レインはよろめき、倒れかけたところ、トッシュに支えられた。
もちろん、意図的によろめいたので、ちょうど正面から抱き合うような姿勢になるようにした。
レインはトッシュの腰にさりげなく手を回して密着。
「え、えへへ……。お姫様抱っこで、少し、目が回っちゃった」
「お、おう。揺らさないようにしたつもりだけど、ちょっと揺れちゃったかな」
「うん……。少しこのままにして……」
「しょ、しょうがないな」
どもってる。間違いなく、トッシュはレインを意識し始めた。
かしこさ150の幼女レインは、トッシュの胸の中で人知れず、ニヤリと笑った。
幼女のあけすけな態度で好意を伝え続ければ、この男、落ちる――!
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