40話 丸本⑦
「軽い吐き気や震えはほんの通過儀礼でした。通過儀礼が収まると最初に来たのは多幸感です。『ああ、自分は生まれてきて良かったんだ!生まれてきたことが幸せだったんだ!』そんな言葉が自然と口から洩れていました」
「なんだそりゃ、そんな効果があるのか?合ドラってやつは……」
ドラッグの具体的な効果について知れる機会というのは多くない。俺はとても興味をそそられていた。
「何と言うんでしょうかね。訳もなくただただ幸福感を感じるというよりも、すでに自分の中にある幸福感に気付く、とてもクローズアップして強く感じる……といった感じでしょうか。……そして次に来たのは感覚の向上です。色彩も違ってキラキラ見えたし、音に対しても敏感になっていましたが、一番は肌感覚がとても鋭敏になっていたという点です。ツーッと手の甲をなぞるだけでとても気持ち良いのです。……背中や内ももを指でなぞると、声を我慢することは出来ませんでした」
「ってことはチンコもビンビンだったってことか?」
慎太郎の興奮した問いに丸本は首を振った。
「いや、ペニスに関しては通常よりも縮こまってドングリくらいの大きさになっていたね。後になると勃起するようなタイプも出てくるようだが、基本的にはペニスは萎縮するドラッグがほとんどらしい。その代わりに乳首はビンビンに勃起していたよ。……私は乳首の開発をそれほど進めていたわけではないので、そんなに大きくなった乳首を見るのは初めてでした。……そしてその大きくなった乳首を触った瞬間、脳に電流が流れました。あまりの快感にです」
「おお、ヤバイな……」
「その頃になると頭の中も完全にエロ一色に染められていました。何か他のことを考えようとしても思考がエロから離れることが出来ないのです。次から次へとエロの妄想が進んでいきます。……いや、妄想という言葉では片付けられないほどのリアリティがありました。……ところで新入りさん、もしエロの神様がやってきて『何でも一番エロい夢を叶えてやる!』と言われたら何を願いますか?」
「何だ唐突だな。……まあそうだな『明日香キラリとセックスする』とかかな。ベタかもしれないけど」
丸本の問いに俺がそう答えたのは多少のサービス精神を出したつもりだった。
「なるほど、確かにそう願う男子は結構多いかもしれませんね。……でも、もし実際に明日香キラリさんとセックス出来る機会があったとして、どうですかね?緊張のあまり勃起しないかもしれないし、あまりに気持ち良過ぎてすぐに射精してしまうかもしれませんよね?」
「……まあリアルに考えればそうかもな。でも『明日香キラリとセックスした』っていう事実が残るならばそれで良い気はするが。男の快感ってのはそういうもんな気がするけどな。……あ、だとしたらそのエロ神様に『絶対に相手をイカせるテクニックを下さい』って願うか、あるいは『超絶倫にして何度でもイケるようにして下さい』って願えば良くねえか?」
これは自分でも上手い返答だと思った。
だが丸本は例の無表情のまま首を振った。
「仮に明日香キラリさんがこの世で一番エロい女性だとしましょう。だとしたら一番エロいことは彼女とセックスをすることでもなく、彼女をエクスタシーに導くことでもありません。明日香キラリになることなのです」
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