21話 謙太②
「僕も長田さんの言うことがちょっと分かる気がするんだよね。……特にセックスは女のためにやっているっていう感覚はすごく分かる」
謙太の自分語りはそんなところから始まった。
だがそれにいきなり当の長田が文句を言った。
「謙太はんは何もせんでも女が寄ってくるタイプやろ?……ワシの場合と同じに思ってもらっては困りまっせ」
それに対して謙太は涼しい顔でうなずいた。
「まあそう言われればたしかに僕は、13歳で童貞を捨ててから女の子が途切れたことはないね。それに、女の人っていうのは本当に優しいよね。僕が何も言わなくても僕のために全てやってくれて、本当に素晴らしい存在だなって思っているよ」
「……まあ、そりゃあアンタみたいな人間を女たちは放っておかないだろ」
この男の話し方はいつもどこか無邪気だった。
さっきの話からするともう30歳を超えているとのことだったが、言葉は素直で表情も豊かで魅力的だ。単に持って産まれたルックスだけでなく、根本の性格が良いのだろう。
いや……コロンブスの卵みたいな話になるかもしれないが、産まれ持ったルックスがゆえに誰からも愛されることによって、こうした性格が出来上がってきたという面もあるのかもしれない。柳沢や向こう側にいる丸本のような面貌に産まれたならば、こんな性格には育たなかったのではないだろうか?
結局のところ世の中ってのはどうしようもなく不公平なものなのだ。
「まあそうだね、僕が恵まれた人間だということは否定しないよ。……女の子の前でカッコ付けている時だけじゃなくて、苛立ってヤケクソになっている時期でも『そんな様子も母性本能をくすぐられる』って言って、許されちゃうんじゃ……まあしょうがないよね」
そういうと謙太はまたしても無敵のスマイルを向けた。
言っているのは『モテないブサイクども、乙~!君らみたいな人間と違って、ボクはどんなに女に嫌われようと振る舞ってもモテ過ぎちゃって困るんだよね~』という非常に挑発的な内容だったが、それをあまりに素直に言われると腹の立ちようもなかった。人が嫉妬するのは自分より同程度か少し上の人間に対してだけで、圧倒的強者に対しては敗北すらも心地良く感じる、ということなのだろう。
「……アンタ、仕事は何をしていたんだい?」
こんな男が何をして、そしてどんな経緯で豚箱に入るようになったのか、既に俺は興味をそそられてしまっていた。
「僕?僕はホストをやっていたよ」
しれっと言った謙太の後に、爺さんが補足を付け加える。
「ふぉふぉ、謙太さんは歌舞伎町のホストでなぁ、一晩で1億稼いだと言われる伝説の人じゃよ」
爺さんの言葉に謙太は恥ずかしそうに頭を振って否定した。
「1億は流石に盛りすぎ!せいぜい7000万くらいだったと思うよ。……それにもう昔の話だよ」
エピソードの衝撃から立ち直る間もないままに、謙太の話は続いていた。
「……まあそんなわけで、僕はずっと女の人には助けられてきたんだよね。だからせめてセックスの時くらいは女の人に恩返しじゃないけど、気持ち良くなってもらおうと思って頑張ってきたんだよ。……若い時の男のセックスは自分勝手で乱暴、みたいに言われるじゃん?僕はそんなことなかった。セックスに慣れてきた高校生の頃からは、女の人をイカせることにこだわってきたんだ。……まあ今になってみるとそんなことにこだわることこそ、幼稚なナルシズムだったと思うけどね」
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