6話 柳沢④
俺がどう反応して良いか分からないでいると、そんな俺の気持ちを見抜いたように柳沢はさらに口元を歪め笑った。
「……だがな諦めるっていう言葉はな、明らかに
ずいぶんと引き込まれる話しぶりだった。俺は思わず身を乗り出していた。
「何だいそれは?……いや、AVってことか」
聞くまでもなく答えは見えていた。……これだけの話を経てくるとAVの持つ意味もどこか高尚なものに思えてきそうだった。
「そう、AVだ。……どんな時もAVは変わらずに俺のそばにいてくれた。ある時は優しく、ある時は厳しくな。俺のそばにはAVしかないと気付いた時、俺はAVを
気付くと俺は柳沢の話をもっと聞きたいと思うようになっていた。
ふと周りを見渡すと他の5人も同じ気持ちのようだった。……さっきの口ぶりから察するに恐らく彼らはすでに同様の話を柳沢から聞いたことがあるはずだ。それでももう一度その話を聞きたい、というのも分かる気がした。熱のこもった話というのはそれだけで聞く価値がある。
「高校を卒業してからの俺は、働いた金をAVに注ぎ込み、毎日最低2本のAVを観ることを自分に課したんだ。もちろんカラミのシーンだけじゃない、ドラマパートも含めて一秒たりとも早送りすることは許されなかった」
許されなかったって、あんたが自分で決めただけだろ、と言いたかったが、柳沢の口調はそんなツッコミを
俺でも多少のことは分かる。AVというのはカラミと呼ばれるセックスシーンの他に、そこに至るまでの過程を描いたドラマシーンがある。AVを観るという行為はセックスシーンを観たいのだから、正直言ってそこに至るまでのドラマ部分など興味は無い……という人間が俺を含めてほとんどだと思う。俺もそれなりにAVは観てきたが、ドラマシーンを通して全部見たことなど一度もなかっただろう。
しかもAVというのはほとんどが一本2時間程度の尺だ。もっと短いものあるが、もっと長いものもある。それを毎日2本観ることを自分に課した?……想像を絶するバカげた行為としか言いようがないが、まあ見方によっては非常にストイックな行為ともいえるだろう。
驚く俺の顔を見て柳沢はニヤリとした。これまでの意味の分からないニヤケ顔とは違った、本物の笑みのように俺には思えた。
「……そうなんだ、結構大変なことだった。なんでこんな無意味なことに俺は時間を費やしているんだ?って気が狂いそうになったことも何度もある。……おまけにな、それだけAVを観ていると、一切興奮しなくなってくるんだ。エロビデオにエロを感じなくなってくるんだよ。……こんな哀しいことがあるか?」
柳沢の語りには悲壮感が満ちていた。
「……なぜそんなになってまで、それを続けたんだ?」
「自分でそう決めたからだ。……思春期の俺を救ってくれたのはAVだけだったんだ。だから俺はそう決めた。それをやり続けるしか俺にはなかったんだ」
柳沢の壮絶な想いを感じて、俺は何も言えなくなっていた。
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