お咎めなし

 竹刀を受け止めると、振動で手が痺れる。それでも、受け止めなければやられる。


 一技之長は、纏わせる事しか出来ないと聞いていたが、放つことも出来た。他にも出来る事があるはず。


 …………闇か、相手の視界を覆う事が出来るかも知れない。


 って、距離をとっても一瞬で詰められる。これじゃ、考えても実行に移せない。


 …………いや、でも。その一瞬の時、刹那の時間。その時でやればいいんじゃないか?


 上からたたき落された竹刀から避けるため、膝を深く折り後ろ跳ぶ。距離を取るがすぐにこちらに来ようと靖弥が動く。


 その隙、使わせてもらうよ。闇を、靖弥に向けて放つ!


 竹刀を下から上に振り上げ闇を飛ばす。今回は刃ではなく、範囲を広くし靖弥を包み込むことをイメージ。上手く放たれ、彼は動きを止めた。


「これは……」


 竹刀を横一線に薙ぎ払い闇を払おうとしたが、物体ではない。斬る事が出来ず、靖弥を包み込むことに成功。逃げられる前に靖弥へと走り、上からたたきつけるように竹刀を振り上げる。


「────ヒュッ」


 口から息が零れる。そのまま、闇に向けて振り上げた竹刀を勢いのまま叩き落した。



 ――――スカッ



「んあ??」


 え、靖弥が、きえ、た?


「え、気配もない、どこ!?」


 周りを見渡しても靖弥が居ない。どこに行ったんだ? もしかして、俺が知らない技を靖弥が持っていたのか? ありえる話だけど、こんな、気配すら消す技なんて、数秒の時間で使う事は可能なのか?



 ――――ドテッ



「どて??」


 後から何かが落ちる音? 何がおち――――


「せ、靖弥ぁぁぁぁぁぁぁあぁああああ!?!?」


 上には空間の切れ目、下にはお尻を摩っている靖弥。何が起きてこうなったの!?


「いてて、おい、何をしたんだ?」

「俺が聞きたい。これはお前の技じゃないのか?」

「いや、こんな空間魔法みたいな大技、さすがに俺は使えない。優夏の一技之長じゃないのか?」

「いや、俺はただ、靖弥の視界を覆い隠そうと思っただけ……」


 地面に座り込んでいる靖弥と目を合わせていると、後ろからカサカサ音。誰かが来たみたい。


「お、やってんな」

「水分さん!!」


 水分さんが来ていた、って、後ろにいるのって!?


「っ、なんで、地下牢にいたんじゃ……」


 水分さんの後ろには、地下牢にいるはずの弥来みくるさん。今は普通みたいだけど、顔を俯かせているからどんな表情をしているのかわからない。もしかしたら何かを企んでいるのかも。


「こいつは問題ない、もう呪いは解けている」

「ほ、ほんとに?」

「本当だ。ほれ、前に出ろ」


 言われたまま、弥来さんが前に出た。こちらの話は聞こえているみたいだし、意味も通じている。


 呪い、本当に解けたのか?


「…………あの時は、すいませんでした。優夏さん」

「あ、えっと。今は意識とかしっかりしているのですか? 体とかも、大丈夫ですか?」

「あ、えぇ。体などは大丈夫です……」


 俺と目を合わせてくれないな、気まずそう。


 そりゃそうか、あんなことがあったんだ。何事もなかったかのような振る舞いは難しいだろう。俺もちょっと、気まずいし。


 弥来さんの性格上、絶対に後悔しているだろうし、永遠と心の中に刻み続けるだろうな。


「…………弥来さん」

「っ、な、なんだ。罰なら何でも受ける、何でも言ってくれ」


 あぁ、そういう思考になるのか。顔は青いし、体は震えている。今はまだ崩れる一歩手前でとどまっているみたいだけど、俺が間違えたことを言えばすぐに崩れ落ちる。そんな感じだ、今の弥来さん。


 ……………………それでも、まぁ。思ったことをそのまま言えばいいかな。


「弥来さん、俺に貴方を罰する権限はありません。俺が聞きたいのは、今の弥来さんの身体が無事なのか、呪いの後遺症はないか。思考はしっかりしているのか、俺達の事はどこまで覚えているのか。そういう所なんですが、いかがでしょうか?」

「えっ…………と。体調の方は問題ありません、体に傷などもないのであともう少し体を動かせば、元と同じ体力に戻るかと。呪いの後遺症は今の所見えません、今後どうなるかは調べてからになるかと。思考はしっかりとしており、貴方達の事はしっかりと覚えております」


 流石弥来さん、すべての質問に的確に答えてくれた。思考はしっかりしているみたい、大丈夫そう。


「それならよかった。地下牢に閉じ込めてしまってごめんなさい、あれ以外思いつかなくて…………」

「い、いえ。逆に生かせてくださってありがとうございます。殺されてもおかしくない事をしたので。お咎めすらないのはさすがに受け入れられないのですが」


 あ、お咎めすら無しなんだ。水分さんなら確かにお咎めとか考えてなさそうだな。今が良ければ良いという思考の持ち主だし。でも、それは弥来さんの気持ちに背くことになるんじゃないのだろうか、心苦しそう。


「お咎めはなしだ、俺はこれ以上何も考えたくない」

「し、しかし…………」

「それについては昨日話し合っただろう。納得しろ」

「はい…………」


 うわぁ、凄く落ち込んでいる。何でお咎めなしと言われて落ち込んでいるのか……。

 それだけ後悔の念が強いという事なんだろうなぁ、責任感強いし。


 お咎めなしが嫌なのなら、何か他に弥来さんが嫌がる事が出来ればいいのかな。でも、何だろう。


「あ」

「っ、いかがいたしましたか?」

「お咎めなしが嫌なのなら、俺達の修行に付き合って頂けませんか??」

「…………え?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る