集中力と安心の声
『あぁ、あの時か』
「はい…………」
『あの時なら仕方がないんじゃない? 安倍晴明も、それを読んで引き離したんだと思うよ。今なら普通に話せるし、思考もはっきりしているじゃん。今なら話くらいは聞いてくれるんじゃないの? 今も怒っている心の狭い先祖なら知らないけど』
うわぁ、棘があるなぁ。まぁ、あの時はマジで心に余裕がなかったし、思考も正常ではなかった。でも、今は前を向いているし、普通に話せる。
でも、どうやってあの空間に行けばいいんだ?
『行き方わからないの? 今までどうしていたの?』
「安倍晴明が俺を送り込んでいたの」
『なるほどね、それはやり方がわからないのも仕方がない。呼ばれるのを待つしかないのか』
「あれ、闇命君が優しい……。本物?」
『なるほどね、口うるさく言われたいという事でいいんだね? せっかく優しく接していたのに、そんな事を言うなんて本当に酷いね。僕の努力を返してほしいな。口うるさく言ってほしいみたいだし、遠慮はいらないね。本心を言わせてもらっ――……』
「結構ですごめんなさい!!!
これは、ここで止めなければ俺の心がズタボロに!!
無理に話を切り上げ、修行の続きを始める。後ろで俺達の会話を黙って聞いていた水分さんは、つまらなかったのかあくびを零し涙を拭いていた。
つまらない話をしてしまいすいません。
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今すぐ動かなければならないわけではないみたいだし、俺は俺で法力の制御を完成にする。
よし、やるか。
手紙を裾の中にいれ、右の人差し指と中指を立てて集中。今では目を閉じずに、湖の変化を見ながら法力を指先に集中する事が出来るようになった。
俺が集中すると、湖の水が揺らぎ始め波が起きる。水滴が飛び始め、波紋がいくつも広がる。ここまでは普通に出来るようになった。
ここからだ、ここからが不安定になる。
空中に浮かべようとすると、法力が四方に跳び、水も同じように飛び散ってしまうのだ。
ここからが、今の課題。
波紋が広がり、水滴が空中に浮かび始める。どんどん漂う水滴は増え、湖が盛り上がり始めた。
集中を切らすな、イメージを崩すな。一点に集中、大丈夫だ。俺は出来る、出来る。
水滴が大きなものまでが空中を漂い始め、湖の水が柱を作りだそうといくつも作られ始めた。
行け、行け。
湖の水が柱を作りだそうと、勢いよく空へと突き出した。それが何本も作られ、水の竜巻が作られる。
「これって――……」
『油断をするな!!!』
「あっ」
バッシャァァァァァァァアアン!!!
闇命君が言ったのと同時に、俺は今までの集中力が切れてしまったらしく、竜巻が崩れ湖へと落ちてしまった。
水しぶきが舞い上がり、俺達を濡らす。
「つっっめた!!!!!!!」
『ばっかじゃないの!!!!!』
「ごめんてごめんて!!!」
肩に乗っていた闇命君も、当たり前だけど水かかかりびしょびしょ。湖の淵に立っていたから仕方がない。水が勢い良く落ちてしまったから、水をかぶってしまうのも仕方がないよ。
「今回のは良かったんじゃねぇか? 今のが継続できれば法力を完璧に操れると思うぞ」
「ありがとうございます水分さん。でも、何故水分さんは水が一滴も当たっていないのでしょうか」
「なんとなく嫌な予感がしてな。急いで木の後ろに隠れさせてもらった」
「際ですか…………」
くそ、逃げられていたか。水も滴るいい男の姿を見なくても良かったとプラスに考えよう。
うわぁ、髪から水が落ちる、前髪が邪魔くさい。ひとまず掻き上げて、乾くまで待とうかなぁ。体も冷たいし…………。
あぁ、でも、今の感覚を忘れないうちにもう一回やりたい。
体力的には問題ないし、法力もまだ残っている。やろうとすれば出来るし、続きをやろうかな。
「あれ、なんか視線…………」
なんだ、水分さんが俺を見ている。なんか、言いたげな瞳なんだけど、なに?
「お前、結構見た目いいもんな。将来同じことをやってみな、女に困らんぞ」
「いや、別にもてたいわけじゃないし、この体は闇命君の物だから俺には関係ないし…………」
闇命君はどうせ女性になんて興味ないだろうし、今の話は無意味。
くそ、俺の元の姿を見ればそんなことなんて言えなくなるぞ。平凡という文字が歩いているような見た目だからなこんちくしょう!!!!
先程と同じように湖に体を向けて、集中。すぐに波紋を広げ、水滴を漂いわせることまではスムーズに出来た。ここからは速さより安定さを大事にしていかないと、また水を浴びてびしょ濡れになってしまう。
息を吐き、先ほどの感覚を思い出して、水を空中に。波紋が複数広がり、盛り上がり始める。
よしっ、水の竜巻を作りだす事に成功。さっきは驚きで集中力が切れてしまったが、ここからまだ続ける。
「っ、くそ!!」
重たい!! まるで、浮かび上がらせている水の重さが右手に集中しているような感覚だ。
歯を食いしばり、手が落ちないように汗を流しながら耐える。足が震え始め、汗が頬を伝い落ちる。
このままだと集中が切れ、またしても失敗に終わってしまう。
だめだ、弱気になるな。イメージを切らすな、集中力を切らすな!!
水の竜巻が不安定に揺らぎ始めた。集中力が切れている証拠だ。だめだ、集中しろ、しろ!!!
再度集中力を高めると、不安定になった竜巻が安定し空へと伸びる。このまま水を全て掬いあげ、修行を成功させる!!
「――――っく、だめだ」
体が重たい、体力の限界だ。ここで諦めるしかないのか。でも、ここで諦めてしまったら、これからの戦闘も諦めてしまわないか。辛い事から逃げる結果にならないだろうか。でも、でも――……
食いしばっていると、脳に直接"誰か"の声が響いた。
『優夏、あともう少しだ。集中力を切らさず、イメージをし続けるんだ。大丈夫、お前なら出来るぞ』
――――っ、今のって。
「こと、ひ?」
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