忘れ技

 周りは見渡す限り闇、手がかりも何もない。手を伸ばしても何か掴めるわけでもないし、靖弥と一緒に真っすぐ歩いていても壁にぶつかることがない。


「なぁ、優夏」

「…………なんだ、靖弥」

「無限ループって、怖くね?」

「言わないで」


 現代の言葉が通じるのは本当に楽なんだけど、今はいらない。無限ループはゲームの中だけで十分だよ。フリーホラーゲームとかで十分だよ、あれも結構怖いからやりたくないけど。


「そういえば、優夏は何か式神を出す事が出来ないのか? 例えば、辺りを照らせるものとか」

「あぁ、確かにそうだな」


 雷火なら辺りを照らしてくれるか。それに、見えない何かに襲われた時とか式神を出しておいた方が安心できる。雷火を出した後に百目も出そう、一緒にこの場から抜け出す方法とかを考えてくれるかもしれない。


 お札を取り出し、いつものように法力を出す事に集中。その間、靖弥が黙って見てくる、気が散るから見ないでほしいな。


「『雷火、俺達を包み込んでいる闇をかき消す光となれ。きゅうきゅう――……』」


 俺がいつものように祝詞を唱えていると、お札を挟めている指先に少しの違和感。お札がいつもよりバチバチと、大きな火花を出している。いつもこんなに火花が立っていたかっ――……



 ――――――――――バチッ!!!



「うわぁ!!!!」


 お札からいきなり大きな火花がは弾けた?! 思わずお札を離し、落しちゃった。

 

 俺の手から離れたお札は、地面に落ちる前に炎に包まれ散りになって消える。


 何が起きたんだ? 俺はいつものように法力をお札に注いでいただけなんだけど。なんで、火花が大きく弾いたんだ? 何が起きたんだ、いつもと何が違った?


「何やってんだ優夏!! 怪我はないか?」

「怪我は大丈夫なんだけど…………」


 もう一回出そうとして大丈夫だろうか。また、同じことの繰り返しとなってしまうだろうか。


「もしかして、子孫本人が近くにいないと法力を使いこなす事が出来ないとかか?」


 え、闇命君が近くにいないと使えない? そんな馬鹿な、そんなことありえるのか? 

 いや、ありえるか。もしかしたら、闇命君が法力の操作をして、出しやすいようにしてくれていたのかもしれない。


 ということは、今の俺は、闇命君との繋がりが切れた状態ってことか。

 改めて考えてみると、めっちゃやばいじゃん。離れただけでも不安がいっぱいなのに、法力が使えないなんて。


「今の俺は、何も出来ないただの役立たず…………」

「落ち込んでんじゃねぇ、落ち込む暇があるなら他の方法を考えるぞ」

「…………わかってる」


 …………そうだな、落ち込んだところで闇命君との繋がりが修復できるわけでもないし、元の世界に戻れるわけでもない。今は、力を使わなくても出れる方法を探さないと。


 ……………………なくね? いや、これって蘆屋道満の力で作りだされた空間なんだよね? それで俺は法力を使えない。


「靖弥の出来る事を教えてもらってもいい?」

「式神と刀を扱う事しか出来ないな。あとは鉄砲。それ以外、教えてもらっていない」

「今使える式神はないの?」

「輪入道くらいだな」

「光くらいにしかならないか。出すだけ出してみる?」

「わかった、光があるだけでも気持ち的に違うだろ」


 靖弥は一枚のお札から、輪入道を出した。サイズ的には今の俺と同じくらい、つまり少年サイズ。

 輪入道を囲っている火の玉のおかげで辺りが淡く光り出した。けど、特に何も変わらない。明るくしても意味はないのかな。


「輪入道、この空間がどこまで続いているのか確認したい。炎の玉を放ってくれないか?」


 靖弥の言葉に頷き、輪入道が動き出す。


 馬車のような体に、顔が付いている妖。大きな口を開け、バランスボールほどの

 炎の玉を生成、何も見えない空間に放った。


 もし壁という概念があれば、どこかでぶち当たるはず。


「…………」

「…………何も音が聞こえないね」

「マジで無限ループか?」

「やめっ―――――」


 っ、後ろから何かが迫ってきている気配。それに、視界が少し明るく……?


「っ、靖弥!! 後ろ!!!」

「っ!?」


 お互い後ろに下がり、勢いよく迫ってきていたモノから回避。俺達の間を炎の玉が通過した。そのまま闇に溶け込み消えてしまった。


 前方に放ったはずの炎が何故か後ろから。もしかして、この空間。


「どうやら、本当に無限ループみたいだな」

「みたいだね。どうする」

「安易に何かを放てば後ろから刺されるし、いくら歩いても端にたどり着くことが出来ない。優夏、詰んだか? 攻略本はないか?」

「あったらどんなに高くても俺は買う」


 攻略のやり方、必ずあるはず。弱点がない魔法や法術なんて存在しない、媒体とかもどこかに隠しているはず。


 でも、俺は法力を使う事が出来ないし、どうすればいいんだ。琴平や闇命君みたいに知識があるわけではないから、頭を使った戦術も不可能。


 本当に詰んだか?


「法術以外に何か、使える魔法とか力があればまた違うのかもしれないが…………」

「そんなのあるわけ――……」


 いや、待てよ? 法術以外に使えるもの? 力、確かあったはず。誰にでも使えるけど、武器に纏わせなければ使えない、使い勝手の悪い代物。これは、誰にでも宿っている力で、精神力があればいくらでも使える。


「優夏?」

「靖弥、聞いたことあるかわからないけど、この世界には陰陽術以外にも、使える技があるんだ」


 靖弥は思い当たる節がないのか、首を傾げ考え込む。蘆屋道満は教えなかったみたいだな、この世界の共通語。


「俺にも使えるはず、この体は闇命君のだし」


 属性がわからないけど、法力が使えないのであればやってみるしかない。この世界唯一の力。


一技之長いちぎのちょうを、どうにか使ってここから出ようか」

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