助けてくれ
俺が言い切ると、靖弥は言葉を詰まらせ拳を強く握る。俯かせているから表情を見る事は出来ないけど、色々考えているんだろう。
今、ここに蘆屋道満が居るのだろうか。気配は感じないけど、道満の事だ。俺達に気づかれないように、気配を消している可能性はある。それを警戒して話せないのかもしれない。
他の人達に気づかれないように、靖弥の気持ちを知ることが出来る何かがあれば。
そういえば、夏楓は読心術が使えるって言っていたな。くそ、ミスった。夏楓も連れて来るべきだったか、でも魔魅ちゃんを一人にするわけにもいかない。
「…………ほ…………しい」
「っ、靖弥?」
「…………優夏、…………ほしい」
声が小さい、でも、聞こえた。靖弥の声。
胸を強く抑え、靖弥が勢いよく顔を上げた。
「っ!」
今にも泣き出しそうな顔、左側を染めていた黒い痣は、ヒザマの時と比べると広がっていた。もしかして、それは呪いなのか? 道満から、受けてしまったのか?
「――――優夏、頼む」
「――――っ、靖弥、こっちに!!」
掠れるような、今にも消えそうな声。そんな声と、泣いているような表情で訴えてくる靖弥。早くこっち側に!!
手を伸ばし、靖弥を掴もうとしたが――……
「俺を、助けてくれ!!!!」
…………―――――っ!!!
靖弥の叫ぶ声と同時に、彼の背後現れた闇の広がる空間。空間が裂けたような、今にも異世界に連れ込まれそうな空間に言葉が出ない。伸ばされた手は掴まれず、靖弥も驚愕の表情を浮かべ、後ろを振り向いた。
裂けられた空間から伸びるしわがれた両手、どんどん異空間から体を出す人物。
「駄目じゃないか、セイヤ。そんな事を言ってしまったら――……」
野太い男性の声、気味が悪く鳥肌が立つ気配。寒気が体を走り、身震いする。
この気配は間違いない、あの空間を作りだしたのはあいつだ。
「蘆屋道満!!」
異空間から姿を現したのは、歪な笑みを浮かべ、現状を楽しんでいるような表情を浮かべている蘆屋道満だった。
靖弥は体を大きく震わせ、その場から動こうとしない。早く逃げないといけないのはわかっているはずなのに!!
靖弥の腕を掴み、琴平達の所まで下がろうとした―――けど。
「邪魔は、やめてもらおうか」
「邪魔はむしろおまっ――……」
足を付けていた感覚がなくなった。いきなり襲ってきた浮遊感、これって!
「地面が!!!」
地面に沼のような空間が現れ、俺達を引きずり込もうとする。琴平や紅音だけではなく、半透明の闇命君も慌てたように俺達に手を伸ばしてきた。
靖弥を離さないように、こっちに向かって来ている琴平達に手を伸ばし掴んでもらおうとしたが…………。
「っ、優夏!!!!」
「ちっ、琴平。俺は大丈夫だ!! だから、絶対に死ぬな!!!!!!」
俺の手は、何も掴めず、靖弥と共に闇の空間に放り出された。
☆
しまった、本体と切り離された。完全にあいつがどこにいるのかわからなくなった。
僕の姿は保てているけど、これも時間の問題かもしれない。いや、僕自身についてはどうでもいい、優夏の方が問題だ。
力の制御を、僕は微弱ながらもしてきた。法力が溢れすぎないように、適度な量を抑えたり、普段から溢れないようになど。でも、切り離された今、僕は優夏に関与が出来なくなってしまった。
「闇命様、優夏との繋がりはどうですか」
『最悪な返答しか出来ないよ、完全に切断された』
「と、いう事は優夏は今、無防備な状態という事ですか」
『力自体は使えるよ。でも、制御が出来るかどうか。今の優夏は限界がない、零か百しかない状態なんだ』
琴平も優夏の安否を心配している。現状が最悪だから仕方がない。
今はセイヤと共に優夏は一緒にいる、離れる事はしないだろう。セイヤがどう動くかで、僕の身体がどうなるか決まる。
「自身の身体を心配するのもいいが、こちらは気にしなくてもいいのかい?」
愉快そうな声、見苦しい糞おやじの姿。そうだ、こっちはこっちで油断できない。こちらも道満の動き次第でどうなるかわからないし、考えなければならない。
今この場で戦えるのは紅音と琴平だけ。でも、琴平は今まで僕の補佐をお願いしていた。紅音も巫女だからという理由で戦闘にはあまり出させてもらえていない。今の状況、さすがにまずいか。
「子孫は現状把握したらしいな、そうだ。今危ないのは君達だ。なんせ、わしが相手だからな」
「そうだな、なるべくなら戦闘は避けて話し合いがしたいんだが、それは叶わないか?」
冷静に琴平が場を繋ぐ。でも、さすがに道満から放たれている気配が気持ちを焦らせるな。琴平も表情に出さないようにはしているが、汗が額から伝っていた。これは、早急に何かを考えないと確実にこちらが負ける。
琴平が時間を稼いでいるうちに――……
「おーい、これは一体何が起きてこうなったんだ? ずっと一緒にいたが何もわからんかったんだが」
『……………………あ』
頭数にも入れなかったな、水分。ずっと黙って後ろにいたから忘れていたというか、さっきまで本当にどこにいた? 気配すらなかったし、ここから離れていたんじゃないの?
「
「いや、本当にずっとここに居たんだがな。気配は完全に消していたが、こっちに矢先が来ても困ると思ってな。かける言葉もなく傍観していたんだが、さすがにこれはまずいと思って声をかけさせてもらった」
もしかして、本当に気配を消していただけ? それ、結構すごくない? 僕でも気配を感じる事が出来なかったし、道満でさえ気づいていなかった。意図的みたいだけど、本当にありえない。さすが、陰陽頭というべきなのかな。
そういえば父さんも気配消すのすごく上手かったな、どこにいるのかわからず、母さんがいつも怖い笑顔で怒ってた。
「それで、これは一体何なんだ? 少女は呪いによって絶命、よくわからん男は安倍家の主と共に転落。それで、お前はなぜか蘆屋道満と呼ばれていた。蘆屋家はいまだ健在だ、不思議ではない。だが、名前や姿がおかしい。確か、今の蘆屋家の陰陽頭は女性と聞く。そして名前は道満ではなく、
確かにそうだ。蘆屋道満の子孫である蘆屋藍華は少女。もしかして、乗り移っているのか?
「これはまた、面白い人物と出会う事が出来たねぇ」
「面白いと言われたのは――初めてだとは思うが、記憶が曖昧だから何も言えないな」
「クククッ。本当に面白いな。性格だけではなく、実力も面白い。わしは
「えぇ…………。俺、戦いたくねぇんだけど。欲を言えば、情報だけを落としてこのままいなくなってほしい」
何その欲、普通思っていても言わないでしょ。自由過ぎる、でも、その発言が何故か道満の笑いのツボを押したらしく、口を大きく開き笑い出した。
もう嫌だ、何この空間。優夏、早く戻ってきて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます