第12話

男は果たして幸運だったのだろうか。




その男はある日の仕事帰り、雷雨に見舞われた。


駅を出て、自宅まで歩いている途中のことだった。


男は雷鳴轟く空を見て、

「雷を喰らうようなことがあれば、せめて苦しむ暇もなく即死にしてほしいなぁ」

と考えた。


しかし直後に考え直した。


「いやそもそも雷なんて喰らいたくない。万一喰らうようなことがあったら即死が良い」


男はそう呟いた。




男の願いは叶わなかった。


男の下に雷が落ちた。


しかし三途の川を渡ることは許されなかった。


男は病院に運ばれ、生死の境を彷徨った後に一命を取りとめたのだった。




男は後にこう語った。


「自分は凄く運が良かった。雷を喰らったにも関わらず死なずに済んだのだから。

朦朧とする意識の中で死にたくないと願っていた。助かって本当に良かったと思う。

それに何より、雷を喰らうなんて物凄く確率の低いこと。そうそう経験できることじゃない。」



果たして男は本当に幸せだったと言えるのだろうか。


それは誰が決めるのだろうか。

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