俺はリア充になりたい!
棚狭 杏丞
プロローグ
「〇〇くーん、はい、あーん♡」
「ん」
「やっぱりおいしいね、△△の弁当は。毎日食べたって飽きないや」
「ち、ちょっともお、〇〇のばかあ」
リア充。そう呼ばれる集団には賛否両論が集まる。そしてそれには多種多様な形があり、恋愛や、友人との付き合い、さらには仕事など。その形から、その人の人間性など、様々なものを露にさせる。
「はあーあ!リア充なんて爆発してしまえばいいのに」
「爆ぜろ」
しかしその一方で、リア充になれなかった、なろうとしなかった者たちが、ぐちぐちと戯言を重ねる。だが、彼らは知らない。いや、気付いていない。実際の所はある程度充実していることを。そしてその影で、居場所がなく希望もない、まるでゾンビのような人間がいることを。
僕、望水昴はまさしくそのタイプだった。勉強こそそれなりだったが、それ以外丸っきしダメなのだ。ゲームにも興味がなく、らのべ…?に関しては何も知らない。そして自慢じゃないが、僕は友達が1人しかいない。とはいえ、その人は幼馴染なので、小学校から今の高校まで一度も友達になった人がいない。
そしてある日僕はある放送協会の番組を見ていて気が付いた。友達を作れば、あいつが言っていた「リア充」という者になれるのではないか、と。僕は今のいままでを後悔している。だから、その後悔を払拭するためにリア充になってやると。そう決めた。
––––––––––ピンポーン
今日は僕の唯一の友達と遊ぶ約束をしたので、来たのだろう。僕はいそいそと玄関へ向かうと、僕の幼馴染であり、唯一の友達である人が––––––––––––居なかった。だが、人は立っていた。誰なのかは分からないが多分日本人であろう。そしてその人は比較的衝撃的なことを言い放った。
「こんにちは。あなたの許嫁があなたを迎えに来たよ」
「––––––––––––いらっしゃい、さゆ姉さん」
「え、ちょっと無視!?」
この人はさゆ姉さんこと相来沙由莉。僕の親戚だ。僕は親が多忙で、今は出張中でいないので、さゆ姉さんがこうして面倒を見てくれている。週2回来てくれればいいと言ったのに、毎日来てくれている。本当にやさしい親戚だ。
「いやー、すばくんが大きくなっててびっくりしたよ前は幼稚園の頃だからあんな小さかったのにね」
「さゆ姉さんも大学生になってもう大人みたいだよ」
「ふふ、ありがとう。そんなこと言ってもらえるとお姉さん嬉しいな♪」
「今日は友達が家に来るから」
「うん、わかったよ。お菓子とかある?買って来なくてよかった?」
「うん、大丈夫。ありがとう」
そう言ってさゆ姉さんは晩ご飯の支度を始める…と思ったら、洗濯物を干し、次の洗濯物を洗濯機の中に入れている。鼻歌を歌っているようで、機嫌がいいみたいだ。
「そっかー、友達が来るんだね。なんて子?」
そうさゆ姉さんが聞いて来るので僕はそれに答える。
「ここに住み始めた時からの幼馴染の子だよ」
「あー、おばさんも言ってたね。唯一の友大なんだっけ?」
「さゆ姉さん、その話、やめて」
僕は友達ができない、もしかしたら作り方を知らないのかもしれない。だが、こうして何年間も培ったこの体が染み付いて成長ができない。やれと言われて出来る人を心から尊敬するくらいだ。僕は揶揄われて嫌な気持ちになったので、気づいてもらおうと、頬を膨らませて見せた。するとさゆ姉さんは…
「ご、ごめん…ねっ… ほんと…謝る…から…くくっ」
何故か喋り方がおかしいが、謝ってくれるのでその善意には応えたい。
「いいよ」
「あーりーがーとーうー!!じゃあ、今度何かコンビニで好きなもの買ってあげるね」
突然、さゆ姉さんは僕に抱きついてきた。とはいえ、これはいつものことだ。何かある度にさゆ姉さんは僕に抱きついてくるのだ。周りからは過保護だとかなんとか言われているみたいだが、僕はあまりそう思わない。
–––––––––ピンポーン、ピンポーン。
また、誰か来たのだろう。今度はさゆ姉さんが「はいはーい!」と出て行った。すると、行って間もなく、さゆ姉さんは帰ってきた。そして、開口一番にこう言った。
「––––––––––すばくん。あの女、誰?」
何故か瞳の赤が曇りに曇っていて、不機嫌な様子だった。するとそこへ彼女はやって来る。
「すーばるー!遊びにきーたよー!…ってえ?誰?この女」
「ぐっ…!?この女…!」
そこへやってきた少女と、それに反応するさゆ姉さんの声が響いた。
「紹介するよ、僕の親戚のさゆ姉さん。そしてさゆ姉さん、この人が僕の幼馴染の–––––––––」
「山本咲でーす!今日はデートしようと思って来たんです!ささっ、行くよすばくん。」
「えっ!?ちょ、待っ。」
そう言われて、僕は手を引かれて無理矢理外に連れて行かれた。昔は外で遊ぶなんてしなかったのに非常に珍しい。
「咲、急にどうしたの?急に連れ出すなんて」
「いいんですよ。最近すばくんの家に悪魔が住み着いているみたいだから攫って来ちゃった♡せっかくだから、本当にデートしてみよっか?」
「いいけど、どこに行くの?」
「あ、そこは別にいいんだ…ふーん」
「…どうしたの咲?」
「べ、別になんでもなーい!とりあえず、〇井でも行こうよ!」
「う、うん…」
それから僕等は、ごく普通にショッピングを楽しんだ。普段なら行かないようなW〇GOと言う洋服店に入った時は少し気まずかった。でも、咲はいつも楽しそうであったので、僕も嬉しい気分になった。そして、今の僕はというと…
「–––おいしいね、すばくん!」
「そうだね」
思いっきり楽しんでいた。某ファストフード店で、一旦足を休めている所だ。そして、僕はこれを期に、友達である咲に相談をしてみることにした。
「ね、ねえ咲」
「ん?急にどしたの、すばくん?」
「聞いてほしいことがあるんだ」
「ふぇ!?…き、聞いてほしい、こと?(待ってもしかして!もしかしてなの!?これキタんじゃない!?)」
「じ、実は…」
「(ドキドキ…)」
「り、リア充になりたいんだっ!」
「………は?」
「そう!リア充!どうやったらなれるかな?」
「えーーーーーーーーとね、すばくん?リア充ってものが、どういうものか分かってるの?」
「うん、『リアルに充実してる』って意味でしょ?だから友達作りたいし、彼女だって作りたい!」
「そうだけど!あらかた間違ってはいないけど!それならそう言いなよ。私が–––––––––」
そう言いかけて、咲は止まった。何故かぷるぷると震えている。
「どうしたの咲!?大丈夫」
「オーケーオーケー。のーぷろぶれむ。とりあえずさ、口調変えてみたら?そしたらさ…り、リア充に近づけるかもしれないよ?」
「そ、そうかな?じゃあ、あ、俺はす、すばる…だぞ?」
「…っ!ま、まあ初々しいけどまあ、いいと思うよ。その調子!」
「ありがとう…な!咲!助かったよ。これでお、俺もり、リア充になれるよ…な!」
その咲からの応援で、俺はこの後人生が変わった。暗黒の一年生時代を過ごした俺は二年生になった。
「やあ、すばる君」
こいつは俺が二年生になってから初めてできた、友達、横沢吉斗だ。クラスに入ってから、転校して来たとかでたまたま俺の席の隣にいたから、仲良くなれたんだ。しかし、先程お伝えしたように、俺には暗黒時代がある。そのせいで俺は前の同じクラスだったやつらから「げ…あいつが…?」みたいな反応をされる。つまり、まだまだ俺の目標には程遠いのだ。
「ねえねえ、すばる君ってさ」
「ん?どうした、吉斗?」
「なんか今年やりたいこととかってある?」
「あー、目標かー。実はあるんだよ、一個な」
「へえ、どんなの?」
「誰にも言うなよ?実はさ–––––」
「俺はリア充になりたいんだ!」
俺はリア充になりたい! 棚狭 杏丞 @Tanase-kyosuke
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