架空旅行記

TM

第1話 出発

 冬の早朝、静寂な寝室に目覚ましのアラーム音が鳴り響く。その男は眠そうにアラームを切った。時刻は4時50分。辺りもまだ暗いが、静かに起き上がり、部屋の電気をつけた。


 顔を洗い、眼鏡をかけ、服を着替える。するとピピーッ、ピピーッ、と炊飯器から炊飯が完了した旨を知らせる音が鳴る。前日に炊けるようにセットしておいた。炊飯器の蓋を開け、しゃもじでまずは十字をきるようにご飯を4等分にし、さっくりと混ぜていく。ラップと前日に作っておいたおかずを用意し、おにぎりを作る。具材は、玉子焼きとかつお節を醤油であえたもの、夕食のあまりの焼き鮭だ。ラップにご飯を敷き具を入れにぎる。海苔は別添えで食べる時に巻こう。握り終えたら必要なものをリュックサックに入れ、厚手の服装の上にフード付きのダウンコートを着て、財布をズボンの尻ポケットに入れ、電気を全て消し、ガスの元栓をしっかりと閉めたか確認し、玄関のドアを開ける。午前5時27分。天気予報アプリによると気温は3°C。晴天の予報である。


 家の近くにバス停はあるが始発はまだ来ないので最寄り駅まで30分ほど歩く。早朝にも関わらずウォーキングやジョギングをしている人がいる。

 戸笠池とがさいけを横目に東海通を歩く。徳重や野並方面への幹線道路だが、まだ車もまばらである。交差点を渡り、出入り口の前に到着した。


 名古屋市営地下鉄桜通線•相生山あいおいやま駅。駅ナンバリングはS19。駅周辺にはコンビニ2店舗と自転車屋、ダイエー跡地にできたマンションなどがあり、そこそこ栄えている。2番出入口から階段を使って改札階へおりる。券売機で「ドニチエコきっぷ」を購入する。620円で市バス・地下鉄が1日乗り放題だ。改札の前には駅員が立っている。「おはようございまーす。ご利用、ありがとうございまーす。」元気な声で利用者に挨拶する。軽く会釈をして自動改札機にきっぷを通し、エスカレーターでホーム階へ下った。

 ホームに着くとすぐ列車が来るとのアナウンスが流れた。ホーム上の監視用モニターとホームドアの状態を示すランプが一斉に点灯した。徳重方面から眩い光が現れ、列車が入線する。停止し、ホームドアと客用ドアが開く。1号車の2番ドアから乗車し、端の席に座った。今日は土曜日。授業があるのかカバンを背負った学生もいれば、音楽を聴きながら寝てしまっているスーツを着たサラリーマンもいた。車内でしばし寝ることにした。



 気がついたら今池を過ぎたところであった。発車直後のカーブを走行する際に出る音で目が覚めた。荷物を確かめる。大丈夫、ちゃんとある。降りる駅は近いので、このまま起きていよう。車内を見渡す。この車両には20人ほど乗っている。世界一周ツアー、週刊誌、学習塾、地元の医院など、車内広告のオンパレードである。その中にあった学習塾の問題付きの広告で時間を潰した。

 「まもなく、名古屋、名古屋。お出口は右側です。」名古屋駅に到着するアナウンスが流れた。荷物を背負い、ドアへ向かう。列車が止まり、ドアが開く。足をホームにつけ、降りる。名古屋の次は終点の中村区役所なので、乗る人はほとんどいなかった。列車を見送り、階段を上がる。改札を出て、しばらく地下街を歩いてみる。ファストフード店などはやっているところがあるが、多くの店はシャッターが降りている。まだ6時台である。仕方がない。


 通路を進み、近鉄名古屋駅へ向かった。発車案内を見ると、6時半の特急があるようだ。全席指定だが、空きはあるだろう。窓口へ向かい、「6時半の難波行きの特急おとな1枚ください」と尋ねた。「どちらまでですか?」と駅員。少々関西なまりである。少し迷ったが、「鶴橋まで」と言い、乗車券込みの代金4340円を支払った。改札を入り、構内のファミリーマートでお茶とお菓子を買った。

 列車が入線してきた。近鉄21000系、アーバンライナーに使用される車両で、「アーバンライナーplus」と呼ばれる。昭和63年にデビューし、のちにリニューアル工事が施され、現在に至る。長年名阪特急の顔として君臨しているが、最近では伊勢志摩方面への特急にも充てられている。車内へ入る。指定された席は3号車5A。窓側であった。せっかくなのでおにぎりを食べる。テーブルが小さい。ラップを広げ、おにぎりを1こ出し、海苔を巻いて食べる。具は焼き鮭だった。もう1こ食べる。今度は玉子焼きだ。まだあるが、後に残しておこう。「ドナウ川のさざなみ」がかすかに聞こえる。名阪特急の発車メロディーだ。これから大阪へ行くのだなと感じさせられた。列車が動き出した。転線するので始めは低速だが、低速区間を超えると加速していく。JR東海名古屋車両区では、関西線で使われる車両が出発の準備をしていた。朝日を浴びながら名古屋を後にした。

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