三百二話 光2

ヨーテルの言う通り、魔王を

倒すためにこれまで人は

多くの犠牲を費やしてきた。

それに、自分達は隊長として

背負っているものもある。

ここで、自分の感情に駆られて

大切な物だけを取ったとしたら、

死んでいった仲間に会わせる顔が無い

ことだってバーゼンには

わかっていた。


けれど、たとえ今自分がこれまで

戦って死んでいった者達のおかげで、

ここに立っていることがわかっていても、

バーゼンはカクバとヨーテルの前に

立ちはだかった。




「バーゼン!!」



もう何を言っても無駄かと、カクバは

バーゼンの顔を見て思った。



なら......もうこれしかねぇ!!




「俺はお前ら二人をここで

倒してでもタチアナを殺す!!

いいなぁ!?」



バーゼンと鬼灯は返事の

代わりに、各々の武器を構えた

のだった。


それを見て、カクバは二人に突撃した。



カクバは残った方の拳を握り絞めて、

バーゼンを殴り飛ばそうとしたが、

バーゼンは一メートル程の自前の銃を

盾にしてそのパンチを防御した。



ゴゴゴゴゴッ!!!



その衝撃で城が揺れる。



続いてバーゼンの隣にいた鬼灯は、

一歩下がったカクバに疾風の如く

斬りかかる。

流石のカクバもその容赦のない

攻撃を食らいそうになったが



「ウィング!」



ヨーテルの風に乗って

ギリギリ交わすことに成功した。



だが、その魔法でほんの少し

貯まっていた魔力を、使い果たして

しまったヨーテルは膝をついた。




「おい! バーゼン!!

何で攻撃してこねぇんだ!」




そんな中、バーゼンは

カクバの攻撃を一方的に受け続ける

だけで、決して反撃してこなかった。




「......」




「てめぇは一体何がしてぇんだよ!!」



「俺は......」



ただ自分の妹を守りたいだけ。



バーゼンにカクバを攻撃する気持ちなど

さらさらなかった。



そのバーゼンの様子が逆にカクバの

感情を逆なでしてしまったようだった。



そんな四人の様子をタチアナは

面白そうに眺めていた。



そして、何故ラーバが

魔王の心臓を人間に移植したという

秘密を、カクバに漏らしたのかを

タチアナはようやく理解したのだった。




なるほど......ラーバめ。

人間共が互いに潰し合うのが

わかっていて、あえてあの

カクバという人間に伝えたな。

そういえば、我の新たな体を

人間にしようと提案してきたのも

ラーバであったか......

相変わらず抜け目の無い奴よな。



そんなことを思いつつも、

タチアナは



「そろそろ我も参加させてもらおうか......」



と呟いて、背中を向けている

鬼灯に歩み寄る。



鬼灯はカクバと敵対していて

それに気づいていない。



先に気がついたのは鬼灯と

戦っていたカクバだった。



「おい!! ホーズキ!!! うし──」




だが、それも遅かった。




「っ!!!!」



鬼灯は驚異的な力で

背中を蹴られ、言葉にならない

音を口から発しながら

前方へと飛ばされた。



「!?」



その軌道上にいたヨーテルは、

弾丸の如く飛んでくる

鬼灯に巻き込まれて、そのまま

一緒に壁に激突してしまった。

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