二百九十七話 真実5

「父母様。残念ながらこの子には

騎士としての才が全くもって

ございません。はっきり言って、

これ以上稽古をつけても無駄に

ございます。」




「うむ......」



「......睡蓮は

もう既にレベル100を超えていると

いうのに......全くあの子は

我が家の面汚しですわ。」



鬼灯が生まれた家は

代々王族の護衛を任される

騎士を多く排出していた。

だから、鬼灯はまだ僅か7才にして

剣術の稽古を強いられた。

それから、三年が経ったが

彼女の兄弟姉妹が才能を開花させて

いく中、鬼灯だけはレベル30にも

届かず、親からはこの言われよう

だった。



「おい、鬼灯。いつも人の後ろに

くっついてて気持ち悪いぞ。」



「そうだ、そうだ!」



「落ちこぼれ!」



「......」



そして、口数の少なかった

鬼灯は兄弟姉妹からも

いじめられていた。



「あ! 睡蓮兄さん!」



「睡蓮お兄ちゃん、 聞いて!今日も

鬼灯の奴、師匠に怒られてたんだよ!」



鬼灯の実の兄である

睡蓮は、怯える鬼灯に

歩みより



パンッ!



と、頬を叩いた。

さらに睡蓮は、その勢いで床に倒れた

鬼灯の腹を何度も蹴る。



「なんでお前なんて生まれてきたん

だろうな! ただでさえ、存在感が

ないんだから、誰にも見られないと

ころで細々と生きるか、それかいっその

こと死ねよ。」



辛辣な言葉を浴びせた睡蓮は、

泣いて痛がる鬼灯を見て愉快に笑った。




そして、一年後......



「もう、この家から出ていきなさい。

鬼灯。そして、決してお前のような

奴が私の子供であることを誰にも知ら

れないように。」



鬼灯は実の父からそう言われたのだった。



家から追い出された鬼灯は

騎士を止めた。

そもそも、自分にはこの職業が

合っていないということは

最初から気がついていた。

無口で影が薄くて、存在感の無い

自分に向いている職業といったら......



鬼灯はギルドの受付嬢に

盗賊になりたいと言ったのだった。


それから、鬼灯は盗賊としての

才能を開花させていき、

十五才にして、レベル400に達して

盗賊の最高位職である忍者になった頃。

彼女は運命の出会いをした。



それは、空が曇天模様で

気分が晴れない昼頃だった。

鬼灯はその才気を認められて

城に招かれたが、慣れない場所で

落ち着かず、城の庭園で暇を

潰していた。

が、暇を潰していたというのは

半分嘘だった。

実は今、自分以外にも

優秀な職業者達が集められており、

その中に彼女の兄である睡蓮も

含まれているようだった。

鬼灯は睡蓮と出くわさないよう、

逃げるように外に出てきたのだ。



頼むから......あいつとは......会いた

くない......



そう心の中で願っていた鬼灯に




「何故君はこんなところで

一人でいるのだ。」



話しかけてきたのは彼女だった。

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