二百九十六話 真実4

「いいですか......カクバ君。

私の言うことをよくお聞きなさい。」



逃げようとするカクバを

押さえつけてラーバは言った。



「あなた方には魔王様を倒すなど

不可能です。なぜなら、魔王様は

どれだけ殴っても、刃物で刺しても、

燃やしても死にませんから。

けどね、実はあるんですよ。

魔王様を倒すたった一つだけの方法が。

実は近年、魔王様の肉体は

長い年月によって使い物になら

なくなっていたのです。

そこで、魔族の幹部である

マッドサイエン様と、魔王様が

ある方から頂いたという魔法の杖を

使って、捕らえた人間から新たな肉体

を作り出しました。

その肉体に魔王様の心臓を移植した

のです。

その心臓を破壊することが、

魔王様を倒す唯一の方法なのですよ。」



困惑して何も言えないカクバに、

ラーバはニヤッと笑う。



「その肉体の特徴を教えましょうか?

魔王様と同じ金色の髪をした人間の

女性ですよ。

しかも、お強いらしいです。

まあ、魔王様なのですから当然ですが。

あ、でも、当の本人は自分が

魔王様などとは自覚していない

ようです。

どうやら、新たな人格が

芽生えているようでしたし。

しかし、アイラス島で姿を

お見かけした時の安心と喜びと

いったら......

おや? 私の言っていることが信じら

れないご様子ですね。

けれど、彼女と魔王様が出会った時、

彼女の体には魔王様と同じ模様が

現れるはずです。

その時あなたは私の言っていたことが

正しかったと思い知りますよ。

新たな肉体を手に入れた魔王様と

カクバ君はどう戦うのか、見物ですね。」



















「信じたくなかった......嘘であって

欲しかった。けど! タチアナ!

お前が魔王なら! 俺はお前を倒す!

もうその覚悟は俺にはできてんだよ!」



「フハハハッ!

貴様らはもうしばらく我に攻撃する

のを躊躇うと思っていたが......よい!

面白いぞ! 貴様! さあ、かかってこい。

我にこの新たな肉体を試させてみよ!」



悪いな......タチアナ............

けど、俺は......俺達は魔族に勝たなきゃ

なんねぇ。

それに......お前が人を殺すとこなんて

見たくねぇんだ!



カクバは溢れ出そうな涙を

こらえて、タチアナに殴りかかる。



だから、ここで......ここで死んでくれ!



カクバが握り絞めた拳をタチアナに

振り抜こうとしたその時



「......駄目!」



カクバとタチアナの間に

鬼灯が現れた。



「どけ! ホーズキ! タチアナが

魔王なんだ!」



「そんなの嘘! 騙されてる!」



「騙されてねぇ! お前も見ろよ!

もうこいつは俺達の知ってる

タチアナじゃねぇ!

バーゼン! ヨーテル! お前らも

よく聞け!

魔王が死なないのは

あそこで倒れてる奴を

攻撃していたからだ!

あれにはもう魔王の心臓は無い!

魔王の心臓は、タチアナの中に

あんだよ!

だから、タチアナを殺さねぇ限り

魔王は死なねぇんだ!!!」



「......そんなの嘘──」



「こやつの言っていることは

正しい。我の生き肝はマッドサイエンと

魔法の杖によってこの肉体の中に

移植したのだ。」



「......タチアナ......?」



「何度も言わせるな。我は魔王ぞ。

この肉体に宿っていたタチアナ

という人間は、もういない。」



カクバの言葉を否定し続ける鬼灯に

タチアナははっきりと言った。



その言葉に鬼灯はガクッと肩を落として

絶望する。



「どけ......ホーズキ。

お前が殺れねぇなら、俺が殺る。

俺がタチアナを殺す。」



そんな鬼灯をかわいそうに思った

カクバは優しく彼女の肩に触ようと

した。



が、その時



「っ!? あっぶ──」



鬼灯は小刀でカクバの首に斬りかか

ろうとした。



「殺らせない......」



「ホーズキ......」



「たとえ......タチアナが魔王でも......

タチアナは殺させない!!!」

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