百四十三話 三日月島8

「しかし、隼人。何か妙ではないか?」




「妙って何が?」



「このファラリオだ。」



「......エレディア村で見たものと、

ほぼ一緒だろ?」



タチアナがそう言ってくるので、

よく生えているファラリオを

観察してみたが、特におかしな

ところはない。



「いいや、確かにこのファラリオの

見た目は一緒なのだが......どうもほら、

一本一本、生えている間隔がきれいに

整っているというか......」



「おお、ほんとだ。よく気づいたな。」



タチアナの言葉どうり、この小さな海には

隅々まできれいにファラリオが生えていた。

いや、誰かに植えられたという方が

もしかしたら合っているのだろう。



「あの壁といい、この海に生えている

ファラリオといい、やはりここには

誰かが来ていたのかもしれない。」



「まあでも、それも何年も前の話だろ?

だって今はこの海底洞窟は

封鎖されているわけだし。」



「それもそうだな。いかん。

少し時間を取りすぎてしまった。

そろそろ行こう。」




「わかった。おい、ペルー。

行くぞ。」




「ピィ!」



ペルーは海から上がるとペタペタと足音を

たてながら後をついてくる。



「ちゃんとけつは洗ったか?」



「ピ!」



「そのどや顔止めろ。」













「ほら、隼人。これで拭くといい。」



「お、ありがと。」



タチアナは皮のリュックから、

村でもらったタオルを俺にわたす。



「ペルー。お前は私が拭いてやる

から、ほらおいで。」



タチアナは次にもう一枚のタオルを

広げ、ペルーを呼ぶ。



しかし、ペルーは何か見つけたのか、

じーっと地面を見つめて動かなくなった。




「どうしたのだ?」



タチアナと俺は不思議に思って、

ペルーが凝視している地面を

近づいて見てみた。



「この赤いのは血か?」



「あぁ、それも随分昔のだ。

ほんとよく見ないとわからないくらい

薄くなってる。」



「このような綺麗な場所でも昔は

戦いがあったのだな。」



「そうだったのかもな。」



ふと見ると、タチアナは

残念そうな顔を浮かべていた。



「行くぞ、タチアナ。」



「......そう......だったな。

先へ進もう。」



その薄い赤い染みが、ここでも

戦いがあったということを

意味していても、俺達は進むしかない。

先に進んでこの世界を救うしか、

他にないのだから。

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