百二話 エレディア村8

「人魚?」



「そう。真ん中にいるのが人魚、

その周りを囲って頭を下げているのが

魚人と私たちエレディアの民だ。」



彼の言う通り、全ての壁画に

人と魚人が中央で女神のように

たたずむ人魚を崇拝していた。



「なぜ我々人間が人魚と呼ばれる

魔族に頭を下げているのだ?」



「......そのさっきから気になっていたが、

魔族って一体なんのことだい?」



何千年もずっと地下で文明を

築いてきた彼らにとって、

そもそも地上で人間たちが魔族に

滅ぼされかけているなんて知らない

のだろう。



「それについては俺が話しますよ。

それと俺達が何者なのかを。」



そう言って俺は、俺が把握している

地上の現状と俺とタチアナが

ここに来た経緯を説明した。












「なるほど......にわかには信じがたいが、

地上ではそんなことになっていたのか......

それに今まで俺達が崇拝していた彼らが

地上では人間の敵だったとは......」




「そもそもなぜエレディアの民は

人魚を崇拝しているのだ?」



「それはな~、むか~しからこの

エレディア村の民と魚人は交流が

あったんじゃ。」




しわしわな目をしょぼしょぼさせながら、

ばっちゃんは何か遠くの記憶を

思い返しながら、エレディア村と

魚人との歴史について語った。







ジュラ島から更に西に行くと、

とある島にたどり着く。

その島の名は三日月島。

その名の通り、三日月型の陸に囲まれた

海の底に魚人の国があるという。

どうやらこのエレディア村と

三日月島を繋ぐ長い洞窟があるようで、

時おり、魚人はその洞窟を通って

この村と交流をしていたそうだ。

そんな中で、魚人の国の

王である人魚様を、エレディア村の民も

崇拝するようになったという。



「だけんど~、あたしが若いときんに、

パタリと魚人はこの村に来なくなって

もうそれっきりじゃあ。」



「どうしてパタリと来なくなっ

たんですか?」



「わからん~、でも~、それから

というもの、その洞窟からは

魚人じゃなくて、悪魔がきよったの~。」



「悪魔?」



「それはお嬢さんたちのいうところの、

魔族だろう。」



「今もその洞窟から魔族が来るん

ですか?」



「いや、その心配はない。

とうの昔にその洞窟は巨大な岩で

封鎖した。今ではその洞窟を

知っているのも、ほとんどいないさ。」



「......タチアナ。」



「あぁ、わかっている。すまないが、

バフといったか。我々を救ってくれた

者に度重ねで心苦しいのだが......

我々をその洞窟につれていっては

くれないか?」

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