五十話 選抜試験9

「これより、隼人対テイルの戦闘を

開始する。両者ルールにのっとり、

正々堂々勝負すること。

それでは、始め!」



「いっくぞぉー! アクセルブースト!」



兵士の合図と同時にテイルは

スピードを一時的に増加させる

強化魔法をかける。




「アクセルブースト、上級職で

覚える魔法か……」



無論、既に回復魔法士の

本をさっきまで熟読していた

隼人もその魔法の効果は

知っているようで




「鉄壁シールド!」



隼人は防御を爆上げする魔法を

唱える。



「あの強化魔法……! 聖職者じゃ

ないと覚えられないはずなのに、

どうしてあの男の人……」



サッちゃんは隼人が

使った魔法を見て、驚いていた。




「へぇ! 君、そんな魔法使えるんだ!

でも、相手が私だったことを

後悔するんだね!」



そう言ってテイルはクラウチングスタート

のポーズをとる。


よもやそんなセリフを吐いて

ただのタックルをしてくることは

あるまいと、警戒し身構える

隼人に対して、テイルはその

予想に反してただのタックルを

仕掛けてきた。




「とうりゃ!」



スピード強化魔法におかげにより、

弾丸のような速さでテイルは

突進してくる。



だが、その程度の速さなど

レベル999の隼人には止まって見えた。


ひょいっと軽くかわす。

そしてもう一度Uターンしてくるだろう

と後ろを向いた隼人をだったが、

思わずそれを見て



「……は……?」



と言ってしまった。



ベシーーンッ!!

とテイルはそのスピードのまま

壁に激突し、目を回しながら

その場に倒れてしまったのだ。




隼人を含め、周りにいた者

全員が同じく言葉を失う。



「テ、テイルちゃんは……

良い子なんですけど……

ドジなんです……」



サッちゃんは再び情けなく言った。




「だ、大丈夫ですか?」



あまりの出来事に

ポカーンと皆口を開ける中、

隼人は倒れたままの彼女が

死んでるのではないかと

心配になり、思わず声をかけていた。



応答はない。


しかし、体にはちゃんとシールを

貼っていたようで、死ぬ程の

速さは出ていなかったようだった。



そして、はっと我に返った

兵士が



「勝者、隼人!」



と叫び、皆がようやく

この状況を理解できた。



アルナと牛喜は歓喜の声を上げ、

テイルの班は落胆し、三人とも

膝をついた。


どうやらテイルの班も一度負け、

バッチ一個という崖っぷち 

だったようで、隼人達の班同様、

回復魔法士同士の戦闘に

かけたのだ。


彼らの敗因はテイルが少し、

ドジというより、ポンコツ

だったことを知らなかったという点に

あるのだが、今それをめげても

もう遅かった。



「やりましたね!」



「我輩は隼人が勝つと

信じておったぞ!」



何はともあれ、バッチ一個の

崖っぷち状態を

隼人たちは打破できたのだった。

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