十二話 やるしかない

「やっべぇ……どこだここ……」



魚人のような生物を返り討ちに

した俺はその魚人を海に捨てようと

船内を歩き回っていたら、見覚えの

ないところまで来てしまった。

なんせ人のいる場所は通れないので

行ける場所など限られてくるのだから、

それもまあ仕方ない。

俺は作戦を変えてこの魚人をどこかに

隠すことにした。



「隠すんだったら……食料とかしまって

ある倉庫とか……いや、流石にそれは

まずいか……じゃあ……この中しかない 

よな。」



散々迷った挙句、俺がたどり着いたのは

鉄状の扉の前だった。

なんの部屋なのかは知らないが、

人もいなさそうだし、とりあえず

隠す分にはいいかと思った。



「良かった……開いてる。」



扉を押してみると鍵はかかって

いなさそうなのでそのまま開いてみる。



「なんだ機関室か……人もいないし、

ここならどっかに……あ、あそこがい

いな。」



部屋を見回すと倉庫の扉を発見する。

中に入ると、ほこりがまい、

薄暗い部屋の中にバケツや掃除道具

一式、ブルーシートや見たこともない

謎の機器などが散乱していた。



「道具入れの倉庫か……お、ちょうど

いい、ブルーシートがある。」


俺はそのブルーシートで魚人を

まるでミイラのように巻いて、

謎の機器の後ろに隠しておく。

なんだか可哀想な気もするが、

呼吸するための穴を開けておいたし、

死ぬこともないだろう。


俺はひと仕事を終えた気分になり、

手を叩きながら倉庫を出ようとした。



その時、鉄状の扉が開いた音がした。

最初は気のせいかと思ったが、

コツコツと足音まできこえてくる。

間違いなく誰か機関室に入って来た

らしい。

でも、まぁ流石にこの倉庫に入って

来ることもないだろうと安易に考えてい

た時だった。



「おい、誰かいるのか?」



扉をノックしながら聞き覚えの

ある女性の声がそう尋ねてきた。



まずい、どうしよう! と昔の俺なら

狼狽していただろうが、こんな俺でも

何千もの異世界を救ってきた。

慌てている暇はないぞと自分に言い聞か

せ、無い頭ながらに時速300mの速さで

思考を巡らす。


この危機を打破するために俺が

導き出した作戦は4つあった。



A:隠れてやり過ごす。

だが、見つかったら最後、下手したら

魚人まで見つかり、この魚人の味方なので

はないかと疑いをかけられる。


だから却下。



B:入って来たタチアナという女性を

部屋の中に連れ込み、気絶させるか、

監禁する。

だが、これも今回の緊急任務の

要である彼女が姿を消せば、

そちらの方が大問題なので却下。



C:説得またはお願いする。



「魚人を助けたんじゃなくて、

みんなに見つからないように

隠したんです!

だから、このことは内緒に

しておいてください!」



意味がわからないので却下。



いろいろ考えてみたが、この状況を

切り抜けるにはパターンDしかないと

俺は結論に至った。


だが……これをやると……俺は……

いや! やるんだ!

これしかないだろ!


俺はそう決心し倉庫にあったバケツを

手に持つ。。



「開けるぞ?」



彼女の声と同時に

倉庫の扉が不気味に開いたのだった。

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