五話 おつまみ

「お願いですか?」



俺がそう言いながら手を離すと

受付嬢ははぁはぁと荒く呼吸を

する。



「お兄さんが

どうしてそれほどの高レベルなのかは

聞かないから、一つ依頼を受けて

くれないかい?」



「依頼と言うと先程の緊急任務

のことですか?」



「そう!

もしお兄さんに興味があるんだった

らそこの階段から上の階に行ってみてよ。

詳しい話しはそこで聞けるからさ。」



受付嬢はこのとおり、と手を合掌

して懇願してくる。



「わ、わかりました。とりあえず

任務内容を聞いてきます。」



まだこの世界の構造を知りたかったが、

最低限のことは資料で読めたので

俺は受付嬢のお願いを受けること

にした。

受付嬢は階段を登っていく俺を

ありがとう! と言いながら

見送る。



階段を登ると下から聞こえてきた

男達の騒ぎ声はやはり宴会だと

わかった。

二階には丸いテーブルとそれを囲むイ

スがセットでいくつかあり、

その席には屈強な男やいささか肌を

露出している女性、フードを被って

顔を隠している者、どんだけ飲んだら

そうなるんだと言いたくなるぐでんぐ

でんの中年男など多くの人間が

酒を飲みながら大騒ぎしていた。



「静粛に!」


すると、俺の後ろから女性の声がした。

後ろを振り向くとそこには三人の騎士を

連れたいかにも身分の高そうな女性

がいた。

髪は金髪で鉄の鎧を身に着け、背中には

西洋風の剣を背負っている。

おそらく俺が先程知った騎士の職業で

あろう彼女には生真面目なオーラが

あった。

彼女の声でさっきまで大騒ぎしていた

連中はぴしゃっと静かになった。



「君もそんなところにつっ立って

ないでさっさと座りなさい。」



「え、あ、はい。」



くそっ! 

あの女の威圧に負けちまった!


俺は悔しがりながらも席の空いていた

酒に酔った中年男の隣に渋々座る。



「まずは皆、私の召集に集まって

くれてありがとう。」



静まりかえった二階で彼女は淡々と

話し始める。



「皆も知っているとおり、現在の

人間と魔族の戦況あまり良くない。

いや、はっきり言うと正直、

絶望的状況に近い。」



俺は他の席に座る連中を見ると、

彼女のその言葉を聞いて暗い顔を

していた。



「しかしだ!

この絶望的な状況を打破する

打開策を見つけた。」



暗い顔を浮かべていた連中が

顔を上げるとそれを見回して、

彼女をいった。



「我々の騎士団は遂に、魔族の

幹部の住処を特定することに

成功した!!」



おぉっと人々がざわつき始める。



「既に私の仲間がその住処に

潜入し、幹部の一人である

ヘルドラを確認している。

これはチャンスだ!

我々人間が魔族の幹部を倒したと

なれば我々に賛同する兵や戦士

が増えてくれるに違いない!

そしていつか束縛され続けた

我々人間が魔族に勝てる日が

来るだろう!」



周りはそうだ! そうだ!

と彼女に同調し始め、任務への

意識を高め合っているのだが……

俺はこの状況がなんのことかさっぱり

分からず、テーブルの上にあった

おつまみのようなものを

酔っ払った中年男性と一緒に

食べていた。


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