Roots

AKIRA

o

あの日も雨だった。

 あの日って何?

 あの日はあの日。

 約束をしたあの日。

 悲しかったあの日。 

 でもまた巡り合えたね。

 私の頭の奥底で変な妄想が繰り広げられる。

 どこかで会ったような気がする。

 彼を学校で観たときに今妄想を繰り広げている頭の箇所で感じ取った感覚。

 何を考えているんだろう。

 最近おかしい。どうしても彼のことが気になって仕方ない。

「ほら、今日こそ話しかけよう」

 森が肘でこずいてくる。

 私の気持ちも知らないで。と言いたくなる。私は暴力が嫌いだ。そして暴力を振るってくる男子という生き物が嫌いだ。

「気になっているんでしょ。勇気出して」

 浜辺が優しく微笑む。そんな私がどうしてあの彼を気になるのかはわからなかった。これが恋というものなのだろうか。恋人が今までいたことのない自分にはわからなかった。

「あの」

 前を歩く彼に少し速足で近づいたから水たまりに気づかず足元が濡れる。

 彼が足を止めてこちらを振り返る。

「あの一緒…です」

「え?」

 言葉が出てこない。初めて彼の声をまともに聞いた気がする。彼は普段一人だ。そんな彼を遠くから観ていて彼は何かを忘れている気がする。

 約束。

 ほら、また変な妄想が始まっている。

「え? ああ、一緒というのは高校が一緒で、ボクシングジム通っているんです」

「ああ」

 言わんこっちゃない。変なことを考えているからしどろもどろになってしまっている。それ以前に、やはり男子と話すのは怖い。傘を持っている手が少し震えてそれを抑えるのが大変だった。

「私、黒島って言います。あのその、、、、えっと、、、、」

 そんな目で見つめないで。でも、その目は懐かしい。変わらないね。

「ボクシング。今日からですか?」

「あ、ええと。そうですね」

「そうなんですね! 私は半年くらい前から続けていて、ほら、聞いたと思いますけどウチの高校悪い人がいるって言われていたので、自分の身は自分で守りたくて」

 早口になる。そう。今日、彼がジムに現れたときビックリした。話しかけるしかないと思った。自分で話しながらボクシングを始めたのは自分のことを守りたいのはそうだけど、また違う理由がある気がした。その答えが今わかった気がした。

「ボクシングって最初嫌だったんですよ。いや、今も痛いのは嫌ですけど、何だろう、やっていくうちに痛いのも好きになるっていうか、変になるっていうか、面白いなって感じになって」

 ボクシングは暴力ではない。ボクシングを始めたときの感覚は彼と出会った時と同じ感覚だった。

「何が言いたいかというと、ボクシングって楽しいんですよ。そうそう」

 ボクシングは楽しい。こうして彼と出会えて、また話せたことが楽しくて嬉しい。

 幸せ。

 話を続けると彼は私たちの近所に住んでいることを知った。

 それから彼に他の三人を紹介して三人で一緒に帰った。久しぶりに一緒に。

 そうか。忘れているのは彼だけじゃない。忘れていたのは私かもしれない。そしてこの日、いろんなことを思い出そうとしている。

  幸せ。

 不意に彼に触れたくなる。当然ながらそんなことは理性で止める。

 やはり最近の私は変だ。

 でも幸せだった。

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