幼いリムの素早い治療

 リムが蛇口を素早く何度もひねると、プリシラのケガした所に勢いよく水が掛かった。


「冷たい!」

「もう終わるっ」


 ほんの数秒すると、リムは水道の水を止め、プリシラの患部は血で滲(にじ)んでいたが、よく洗浄されて擦り傷が見えるだけで、ほとんど綺麗な肌色になっていた。


「そんなに痛くなかっただろ?」

リムは、痛くないように、リュックサックに入れていた新しい

タオルで患部を押すようにして、プリシラの濡れた足を拭いてやった。


でも、プリシラは、小さい声で「痛い・・・・・・」と、背を丸めてきゅっと体を引き、顔をしかめた。


「そうか?絆創膏貼れば痛くなくなるよ。ちょっと待って」


 リムは、プリシラが靴下と靴を履き直すのを手伝ってから、リュックサックの中から、いつも、女医の母が入れてくれていて携帯していた救急ポーチを出し、その中から絆創膏を取り出した。


「丁度良い大きさのがあったぞ」

元気に言って、絆創膏をプリシラの顔の前にヒラヒラと揺らして見せてみた。

「あ、ばんそーこ!」

プリシラは怪我は嫌だが絆創膏は好きだった。特にリムお兄ちゃんが持っているものは。

「はは、シーラは絆創膏好きだろ」

リムはプリシラに微笑んでみせた。


 プリシラは、そんなリムに、安心して甘えたくなったのか、リムの名を、か細い声で呟き、まだ心細いのか、しゃがんでいるリムの股の間に入るようにして背中をリムの胸とお腹にピッタリと付けた。


「なんだ、シーラ、甘えんぼだな」

リムはプリシラのことを愛おしく思って、微笑んでプリシラを足の上に抱き上げて座らせ、絆創膏を怪我した所に器用にきれいに貼った。


「なあ、もうそんなに痛くないだろう?こんな大きいのなら剥がれないよ」リムが微笑みながらそう言っても、プリシラはまだ心配そうな顔をしていた。すると突然、プリシラはブルっと一回体を震わせた。


「おいっ、風邪引いたんじゃないのか?」

リムが心配して、プリシラの顔を覗いてそう言うと、

「リムお兄ちゃん、おしっこ・・・・・・」プリシラは、小さく、しかしはっきりとした声で言った。足に水をかけられて寒くなったのか、自然と行きたくなったのか尿意をもよおしたらしい。


「ええ?おしっこ?ボクの家まで我慢出来ない?すぐだよ?」

「出るっ」

「出るって、もう?」

プリシラは大きくうなづいて、リムの足の上に座りながら、モジモジし始めた。


「ええっ、どこでしよう?ペーパーはティッシュでいいかっ」

焦ってプリシラを立たせながら独り言を言った。プリシラはリムの足の上から立って降り、その場で足踏みしだした。

「リムお兄ちゃん、もれるう!」

「ちょっと待て!」


 リムは家の中やトイレのある公共施設などでは、今日だってヒマワリ公園のトイレにプリシラを連れて行ったことはあったが、ほとんど何も無い小さな公園ではどうしたらいいか、5才の幼児の頭はフル回転した。しかし、すぐ冷静になって、すばやく辺りを見回し、プリシラが用を足せそうなところを探した。



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