夢列車

笠井 玖郎

*

「ここは夢列車。貴方の見たい夢までご案内いたします」

「まじか。じゃあ彼女が出来て、リア充してる夢を見たいんだが」

「…………」

「おい、なんだよ黙り込んで」

「ここは夢列車。貴方の見たい夢までご案内いたします」

「RPGの村人Aみたいな発言すんなよ!」

「夢のまた夢はサポート外ですので……」

「彼女は夢ですらないの!?」

「他に見たい夢はございますか」

「ほんとに見せてくれないのかよ……じゃあ、大金持ちになる夢とか」

「……ここは夢列車。貴方の」

「夢くらい見させてくれよ! 夢がないなぁ!!」

「涙を拭いてください。ここは夢列車。貴方の」

「わかったよもう。ある程度現実的な夢じゃないとダメなんだな。じゃああれだ。彼女とかじゃなく、普通に、その、で、デートとかならどうだ」

「私とでございますか」

「なんでお前となんだよ」

「他に選択肢が思いつかなかったもので……」

「お前男じゃん……やだよ……」

「……女であれば差し支えないと?」

「ん?」

「ですから、女であれば誰でも良いのですか?」

「誰でもっていうのはちょっと……その、かわいい娘がいいな」

「承知いたしました。では行きましょうか」

「え、まじで?」

「ここは夢列車。貴方の見たい夢ならば、どんなものでも見せましょう」

「さっきサポート外とか言ってたクセに……って、なんだよその手は」

「ご案内するのですから、エスコートするのは当然でしょう。ああ、いえ、この場合はエスコートしていただいた方がよいのでしょうか」

「おい、待てお前」

「デートくらいならお安い御用というもの。さあ行きましょう」

「嫌な予感しかしないんだが」

「まずは無難に映画館でしょうか。出会ったばかりで緊張されているでしょうし。ああご安心を。女性的な仕草なら、心得ておりますので」

「やっぱりお前なんじゃん……」

「それとも他に行きたいところがごさいましたら、そちらに変更いたしますが」

「配慮をする前に俺の話を聞いてくれ。俺は男とデートしたくはないと」

「私の外見についてはここまで描写がありませんので、私の性別が本当に男なのか、分かる者は貴方ぐらいしかおりませんよ」

「その俺が男だって言ってんだけど?」

「――しゃららん、という音とともに、車掌を名乗る精悍(せいかん)な顔つきをした美青年は光に包まれ」

「ナレーション風のセリフで事実を曲げようとするな」

「精悍な顔つきの美青年には突っ込まないのですね」

「そんなとこだけ拾うな」

「それにしても我儘(わがまま)ですね。折角貴方の切望する夢を叶えて差し上げようというのに」

「一番切望してた夢なら、真っ先にサポート外って言われたけどな」

「しかし、私は寛容なので許して差し上げます」

「ほんと話聞かねぇよなあ!」

「さて、特急『夢行き』、間もなく発車となります。閉まりますドアにご注意下さい。なお、本列車は途中下車出来ませんので、ご利用のお客様は現実世界でのお忘れ物にご注意下さい」

「……なぁ」

「途中、ライフイベント、転換期を経由し、終点の『夢の走馬灯』に停車いたします」

「…………」

「ご心配の際は、車掌までお申し付け下さい」

「…………やっぱり、そうなんだな」

「……ええ。貴方の叶えたかった夢まで、あるいは叶わなかった夢まで。ほんのひと時ではありますが、ご案内いたします。ただ、彼女と充実した日々を送ることや、大金によっていつまでも裕福に暮らすことは出来ませんが……まあ、女装くらいなら三秒で出来ますので」

「女装するのか」

「どうです?」

「…………悪くはない」

「かわいいでしょう」

「自分で言うな」

「ただ三秒しかもたないので、ここぞという場面でご利用下さい」

「ウルトラマンでももうちょっと保つぞ?」

「――それでは。特急『夢行き』発車いたします。終点到着後は、引き続きご乗車いただけませんのでご注意下さい。

 どなた様もご達者で、いってらっしゃいませ」

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夢列車 笠井 玖郎 @tshi_e

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