眠れない天使のように

ちえのいずみ

序章 二人が見た夢

「ねえ、ヒロト、起きている?」

「ヒロト、今日も眠れないよー」

「ヒロトのバカ! また眠れなくなるじゃないの!」

「眠れない」

「眠れない……」


ヒロトは、はっと目覚めた。朝だった。

なんだ、またあの夢か……。

俺はヒロト。少し前まではITエンジニアだったが、今は、白金でコンサルタント業を営む傍(かたわ)ら、作家として本を書いている。

ヒロトはベッドから起き上がり、顔を洗った。そして自分の部屋に戻り、机の上にある本を見つめ、その本に挨拶した。

「おはよう」

それはまるで、恋人に語るかのように話しかけていた。


あたしはユカリ。

今はまた、あの人の夢を見ている。

その夢はいつも同じ場所……。大自然に包まれ、星空がとてもきれい。目の前には青々とした湖が見える。ここは、田舎の小さな山の山頂……。そしてあたしの隣には、いつもあの人がいる。あたしは彼と寄り添い、同じ星空を眺めていた。

そしてふっと気づくと、いつの間にかあたしは、十二歳の子どもに戻って一枚の絵を眺めている。その絵には、あたしがいつも大切にしていたあの人が描かれていた。そしてあの人の隣には、あたしが寄り添っている。

そう……その絵の光景はあの山頂……。あたしとあの人がはじめて出会い、きれいな夜の星空を二人で眺めていた思い出の場所であった……。


 ——そこでユカリは目を覚ました。


「ふうー、またあの夢か……」

ユカリはクスッと笑った。

ユカリはベッドから起き上がり、部屋に飾ってある絵を見て挨拶した。

「おはよう」


二人は思った。

ユカリ「あたしは幸せだった。あの人がそばにいるだけで」

ヒロト「俺は幸せだった。ユカリがいてくれたから」


ヒロトは、机の上の本を手に取った。

ユカリは、壁の風景画に手をそっと当てた。

ヒロト ユカリ「そう、それは今から十五年前。あの思い出の階段から始まった……」

ユカリは絵の題名を、ヒロトは本の題名を同時に見つめている。本と絵は同じ題名が書かれてある。二人はその題名をしばし見つめていた。その題名は次のように書かれてあった……。


 眠れない天使のように~運命の赤い糸に導かれて

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