第32話 紐を解く
その半透明な姿は金色の輝きを放ち、背中から大きなムシバネが、漂うように空を掻き宙に浮く。金一色に見えた体をよく見ると、顔から全身にかけて赤い模様が太い血管のようにはしっていた。迅がマーナと話していると割り込む様に、
「初めて見ちゃったよ『鳳凰乱舞のマーナ』」
と声のする足元をみると、シュルシュルと体をくねらす真っ黒い大蛇のような様に思わず
「うひゃあっ。キモっ! ……ってレンカさん?! 」
「ひどーい、迅さーん。あたし泣いちゃうよ! 」
「レンカかわいいよ……イモムシみたい」
「キクリぃーっ、あんたまで! 芋虫とは全然違うのよ! 」
迅は足元で地面を這うように動き回るレンカをみて尋ねるように訊く。
「それでよく動けますね。どんな仕組み何ですか? 」
「蛇はねぇ。お腹で歩くんよ。……」
なんでも蛇というのは胴体を走る腹板と呼ばれる無数の鱗のエッジが接地面に引っ掛かり、それを体の伸縮とS字にくねることにより前進するのだそうだ。そこに
「それで今全裸なんすよね」
「そーよっ! 肌出さないと全然進めないもの! はぁーなんか遠い祖先様になったようだわ……」
先ほどの頼みとは甲冑含め、衣服全部を脱がせてほしいと頼まれ、どうにかしてしまったのか? とは思ったのだが凄むレンカに断れず、キクリに手伝ってもらったというわけだ。
「いや、真っ黒い鱗で覆われてるからあんまそんな感じしないっすけど、おケツプリプリしてんのはっきりわかりますよ。いやー眼福眼福っス」
「ヤー。見ないでーっ」
「たまらんすね。こんな時に一度に二人の裸みれるなんて。ははっ」
「二人? 」
マーナの問いかけにしゃあしゃあと応える。
「マーナさんもスッポンポンみたいなもんじゃないすか」
「やーっ。見ないでください。もう! 」
「はははっ。すんません。冗談あとにしてすぐ場所移りましょう。まずみんなの自由を奪ってるやつ何とかしないと……ここは何とかなったけど、ほかの国の隊大丈夫かな……」
「迅さんあれっ! 」
「んっ」
マーナの指す空を見上げると遥か上空に、米粒くらいに見えるエリザベスが、迅達がいる以外の三方向の地上に向けて幾つもの熱線を閃光とともに放ってる様子が見えた。耳を澄ますと確かに遠くで帝国兵らしきからの悲鳴のようなものが聞こえていた。
「うわあっ。あんなに高く上がって……」
「ええ。おそらくとっさの判断でこの拘束の干渉範囲から逃れるために距離を取ったんですね。恐るべし終焉の……ですね」
「そうか、それであんな高くから。助かる。まずベスさんのおかげでここ以外の部隊が大惨事にはなってないことを信じて、いきますか。二人ともそのままの姿でいけるんすか? 」
「もちよ! こんなこと出来んの蛇種だけなんだから。
「ええ。ホントは体が心配なんですけど、これじゃあみんな同じですもんね」
「レンカさんわかりましたから。ははっ……ああ、リスクって本体が無防備になるってことか」
「迅さん、私の体のそばにミクルとラオを寄せてください。いざという時はなんとしてでも私が二人を守ります」
マーナにいわれ、動けないでいるミクルとラオを、眠っているかのようなマーナの隣へと運ぶ。
「ミクル、ラオ。も少し頑張って待ってろ」
「ミクルも行くーっ」
「おいも……」
「ここでマーナ姉ちゃんの体守っててくれ! 」
『……うん』『おいわかった』
「ジン……」
キクリが迅の手を引っ張り何もない目の前を指さす。
「ん。……どした…………うわあっ」
突然目の前に現れた者らに声を上げる。
「え。え。え。……君は」
「初めまして。じゃないか」
「君たちは……前髪ウザイカップル……じゃなくて……」
「プっ。失礼だな」
と前髪を手でかきあげたのは神聖国で意味なく声かけてしまったカップル。
「エボーだったのか」
髪のしたから覗く青い瞳に様々なことを駆け巡らせていると、キクリが答えるかのようにいう。
「ジン、この前もいたよ……鉱山に」
「えっ。……さっきの頭がポンは君か! 鉱山ときも」
「はい。長話はこの戦い終わった後で。僕と彼女もいっしょに戦います」
その十代後半くらいの見た目のカップルはハヤトとミサキといい、迅らとともに行動をしたいと申し出ていた。その彼女も迅らに笑顔で会釈をしてくる。少しでも戦力が欲しかった迅らには願ってもないことだった。
「へぇーっ。なんかわからんけど、頼もしいな。」
そうして新たな仲間を加えて迅らが踵を返そうとしていたところ、地面に横たわる味方兵から様々な声が上がる。
「姉さん。すんませんっ頼んます」
『すまん』『頼む』『頑張ってくれ』……その中でこちらに呼びかけるように声が上がる。
「マナ、ジンちゃーん。ちょっときてくれ」
ジンとマーナがそばに行き
「ダグさん、待っててください」
「ダグ……」
「はっ。情けねーな。……マナ。久しぶりに見たぜよ。『鳳凰乱舞』……頼むわ。ジンちゃん、これ使ってくれ」
「ダグさん、このデカイ剣は俺には……」
「きっと役に立つから。あと頼むぜよ。英雄っ! 」
現状を悔しがる表情を見て取り返事をする。
「わかりました。預かります。待っててください! 」
預かった幅広い剣を腰に差し、
「キクリ、案内してくれ。みんなを抑えてる機械かなんかの場所わかるか」
「うん。……まっすぐ走って」
迅らは味方兵みんなの想いを背負い走り出す。
迅はキクリを背負い案内されるように進む。すると走りながらもハヤトが声掛けてくる。
「へぇーっやっぱり透視なんだね。この前も姿消したのに目で追っかけてたから」
「消す。追う? ハヤト君はサイキックポンだよね。ミサキさんテレポートじゃないの? 」
「プっ。なんですかそれ。テレポートじゃなく見えなくするんです。彼女のチカラのおかげで今まで逃げきれてました。だから焦ったんですよ。ふいに声かけてくるから。それであと追いかけたんですよ」
「はあー。鉱山まで? 単純に聞いてくれれば良かったのに」
「いえ、でもおかげで迅さんがどんな人かわかりましたから。お仲間の方たちもね」
「気に入ったなら一緒に旅するかい。今男勢が少なくてさ」
「なんです。迅さん」
「いや……」
「僕入っても彼女も入るから同じですよ」
「そりゃそうなるか、ははっ」
「ジン、ここ右いってさがる……」
「はいよ」
決戦は近い……
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