第20話  戦いの終わりの後

「大丈夫……ここにはいない」


 キクリを見ると、泣いているのか笑っているのか混ざったような感じで目に涙を貯めている。もう一度迅に抱き着き呟く


「よかった……」


「視えたのか? 」


「うん。……怖くてみえなかった……だって、もしいたら……いえないもん、わたし……ミクルとラオっちにいえないもん……」


 震えて話すキクリに


「そうか。頑張ったな……」


 ミクルとラオを見ると、二人は体を小刻みに揺らし泣いている。この時まで泣くことも喚くことも出来ず、ただ途方に暮れていた二人が初めて泣いていた。そして二人は迅とキクリの方に向き、抱き着いてきた。


 迅は三人を抱き寄せ


「よおし、ほら。いくぞ! 二人のお姉ちゃんに早くしらせなきゃ。だろ」

「「うんっ! 」」



 ◇



 すっかり元気を取り戻したチビッコ三人は、亜人達のその日の夕飯作りの手伝いに精を出す。


 奴隷となっていた亜人は三十四名で馬車一台で来ていた迅らでは移動出来ないということで、今晩だけこの場に泊まることにした。

 少しでも早くこの場を離れたいだろうがやむを得ないだろう。

 明日朝早く、レンカと亜人数名で、来る途中立ち寄った町で馬車の手配して迎えに寄越すことになり、レンカはその町から真っすぐ神聖国へ、今回の顛末を報せに行くことになった。


 龍国での功績等々で、知名度のあるレンカが行くのが話が早く済むとの事。加えて神聖国から龍国と今回犠牲になった亜人の国にも連絡することになった。人国以外の国は国家間の指導者同士で魔法でのコンタクトが可能となっていた。



 まずは今日は、奴隷だった亜人達にゆっくりしてもらうことにする。食料は人族が自分達用に蓄えてあるのが有り余るほどだったので困ることはなく進む。


 大分、亜人達も落ち着きを取り戻してきたようだ。悲しみが消えることはないだろうが、各々の表情にもゆとりのようなものが窺えてみえた。



 ◇



 小屋から少し離れた片隅で、迅は一人夜空を眺めていた。


 はぁ。こうゆうとき煙草ほしいんだよなぁ。また社長さんに貰いに行くか。


「ジーンさん。お疲れー」

「お疲れ様でした。迅さん」


 マーナとレンカが揃って迅の元へきて両脇に座る。レンカが迅の顔を覗き込みながら言う


「どしたん? 」


「いや……今回キツかったっスね……」


「そうね。色々とね」


「あの人族らはどうなるんですか? 」


「とりあえず一番近い神聖国に引き渡す。心配しなくてもそこから人国に渡すってことには絶対しないから! 」


「情報だけ訊いたら……処刑でしょうね」


「てっきりレンカさんとマーナさんで、尋問まがいなことすると思ったんですけど」


「あとは国に任すのが一番だよ。うちらだけで人国と渡り合えないっしょ」


「確かに」


「それに神聖国には、うちらの必要な情報あれば報せてくれるよう頼むから」


「レンカさん明日から一人忙しいっすね」


「全然よ。一歩進むんだから」


 レンカが意気揚々と話を続ける。


「これが切っ掛けで各国が名を連ねて抗議が起こるだろうし。恐らく知らぬ存ぜぬ。勝手にやったことだと決め込むだろうけど。あまり世の中舐めない方が良かったってあいつら思い知ることになるわ! 神聖国、亜人国、龍国連合よ」


「そうね。レンカ戻ってきたら私も動くわ。私の国だけ蚊帳の外は無いでしょ! 」


「えっ! 」


「戻るのね」


「ええ。エルフの国へ」


「えええっ! 」


「おおおっついに『五家峰仙最強の……』でるかぁ」


「えええっマーナさんもレンカさんみたく二つ名あるんすか? 」


「ダメ……ですか? 」


「いや。かっちょいいっす。俺も欲しいっス。ははっ」


「迅さんあるじゃん。『ホネウズメのジン』ってキャハっ」


「はいーっ? バカにしてーっ! 」


「ふふふっ」

「アハっ」


 翌朝早々、レンカと亜人数名が町へ向かう。

 迅とマーナは亜人達と、山積みされていた遺骨と亡骸から、故人の遺品やらを選別し埋葬をしていた。埋葬途中にも悲しみの嗚咽などはあったが何とかやり終える。そうこうしているうちに、神聖国の警ら隊を乗せた迎えの馬車が六台到着した。皆、各々の故郷へすぐにでも帰りたいところだろうが一旦、神聖国で経緯等々の聴取が行われるとの事。


 迅らと亜人達は無事神聖国へ到着し、迅らは亜人達とそこで分かれることとなる。亜人一人一人からお礼と抱擁を交わす。迅は昨日掴みかかってきた男と特に強く、最後は笑顔を見せてくれて、その場をあとにして宿に戻った。


 宿に到着早々、迅は部屋に倒れ込むように寝転がる。


「はぁ……」

「なんですか迅さん。着いて早々」

「いや、ちょっと少しこのまま……」


 一人駆け回っているだろうレンカさんには悪いけど、平和育ちの俺には重すぎるミッションだったな……


 横になっていると何かが近づいてくる音がする。

 ゴロゴロゴロゴロ……と迅を真似たチビッコらが、両手を伸ばし横になって回転させながら迅にくっ付いてきた。ただ回転して部屋を徘徊するのがそのまま遊びになったらしい。


「きゃははっ」

「ジン……これおもしろい」

「んだおもろい。へへっ」


 いつもの三人に安堵する。思い立ったように迅がマーナに声かける。


「あっ。マーナさん、今日俺夜出ますね」

「えっ? 」

「この前話したバーです。いいでしょ」


 と両手を合わせ拝むようなポーズをとる。この世界に通ずるのかはわからないのだが。


「えーっ。じゃあ私も」

「ダメですよ」


「怪しいですね。女性が接待するなんとかですか……」


「へっ。だからそうゆう店は無いんでしたよね」


「あっそうでしたね」


 ん? ホントはあるのか?


「わかりました。楽しんでください。そのかわりいいですか? 」


「なんです? 」


「私が里に帰るとき迅さんも必ず一緒に来てくださいね」


「はあ。もちろんいきますけど……」


「よっし! 」


 と珍しくマーナが拳を握りしめた。


 ◇


 昼の喧騒から日が落ち、闇を照らす街灯が夜の街をつくりだす。


 迅は先日気に入ったバーに来て酒を飲んでいた。とにかく酔いたい気分だった。


「マスター、あの社長さん来てます? 」

「最近見ないですねぇ」


 渋い感じの龍国人のマスター。鰐か蜥蜴のような名残りがある。夜の仕事しているからにはそれなりに、腕っぷしが強そうな雰囲気を持っている。

 しばらく飲んでいるとドアの開ける音と


「らっしゃい」


 とともに二人の男女が入ってきた。


「おお。いましたかジンさん」


「ああ。社長さん、待ってましたよぉ」


「フフフっ。なんですか。社長ってフフっ」


「あらっ。社長やりますねぇ。このお。どこのモデルさん連れてんですかぁ」


「モデルとはなんなのかはわからないけど、褒められてるんですね。きっと」


 迅が秘かに待っていたこの世界で初めての飲み友達。会えたのは嬉しいがまさか極上美人同伴とは……やられたねぇ。何だマスターのあの顔! さすがの強面もギョッとしてるよ。ははっ


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