第18話  奪還

 ある朝早く、八百屋のおばちゃん獣人が宿にやってくる。


「ああ。お兄さん、あのね。ちょっといいかい」

「はい。どうしたんですか? 」


「この国の外れに鉱山があるんだけどね。行軍のあと、結構な亜人が連れていかれたって噂を聞いたんだよ。そこにあのコらの親御さんがいるかはわからないけどね」


「鉱山ですか? 働きに。ですか? 」


「奴隷だよ。攫われて! あんた目の前にいうのもなんだけど、人国の鉱山があるんだよ」


「えっ。攫われて? ……人国ってそんな近いんですか? 」


「あんた何もしらないのかい。人国はずっと離れてるけど、その鉱山は人国の領土なの。あっちこっちに点在してるのさ」


 んー、なるほど。おばちゃんがミクルとラオがいないところまで連れ出してきて話したのがわかった。これは、マーナさん、レンカさんに相談だな。


 おばちゃんとのことを二人に話すと、マーナが暫し考え込み口を開く


「そう。鉱山奴隷ね」

「ありえるね。あの行軍の混乱に便乗して攫ったってことだね」

「だとしたらこれ以上の情報は期待できないから行くしかないわね」

「行くっきゃないね! 」



 翌日早々、鉱山へ出発する。距離と急ぐ必要もあることから、馬車を借りてレンカが手綱を取り向かうことになる。


 昨日そのことについて話し合いが行われた。

 ミクル。ラオには正直にそこに親御さんがいるかも知れないことを話す。いた場合、奪還を前提に人族と交戦もありえること。とりあえず、鉱山の手前の町まで入ってみて様子を探る。という計画だ。


 鉱山向かう途中、マーナに昨日聞きそびれたことを確認する。


「大きいんですか? 」

「鉱山は大きいですね。鉄、銅を採掘しています」

「働いてるのはみんな奴隷なんですか? 」


「多分そうだと思います。それに亜人は体力的に恵まれているので、肉体労働力として良く使われるって聞いたことがあります」


「奴隷って違法ですよね? 」


「人国以外では違法です。ですが、人国でも攫っての奴隷は違法ですし、許しがたいことです。そうならば鉱山奴隷全て解放ですね」


 手綱を引きながら話を聞いていたレンカが話に割って入る


「ああ。それは他の国からも容認できないから、必要なら龍国ソラリスにも掛け合うよ」


 はぁー。クズだな。


 鉱山手前の町に到着し、情報を集めると、やはり亜人奴隷が多数いることがわかった。

 町をでて、ある所から鉱山まで一本道になるところで検問のように道を塞ぐバリケードが敷いてあり、二人の男が立っていた。二人とも腰に剣を差し、内一人は銃のような筒を持っている。


「なんだあれ? あれが火薬をつかった銃なのか? いや。銃っていうにはデカすぎだろ! 」


 そのバリケード前で馬車を止め、レンカが降り、つかつかとその男二人のもとへ歩いていく。迅の隣ではマーナがヤジリを潰した弓矢を準備していた。


「おい、止まれ女、なんだ? 」

「ハーイ。こんにちは。ちょっと道に迷っちゃってー。この先何あるのかなって」

「はあ? 何もない。下がれ……おいっ! 」


 レンカは歩みを止めることなく、話しかけた男の目の前まで近づき、そのままノーモーションで顎下から蹴り上げる。併せてもう一人の男のコメカミに矢がヒットし、ほぼ同時に二人の男は地面に突っ伏す。



 あいかわらずこの二人は……迅はもはや驚きよりも心揺さぶられる思いがした。俺も……

 二人の男を拘束し道端に置き捨て、そこから歩いて向かうことになった。そこから道は使わず、しばし、様子を窺いつつ道に沿って斜面や山を伝いながら歩みを進めると見えてくるものがある。


「あそこですか? いますね。これみんな攫われたんですかね? ん。ちょっと待ってあれは何してんだ」


 かがみ込みながら見る迅の視線の先には、禿げた鉱山と三十人くらいの労働者。それを見張り役が、見えるだけで五、六人くらい。労働者には手足に鎖が繋がっており、必要以上の稼働が出来なくなっているようだった。



 そして今まさに迅の目に入ったのは見るも無残な光景だった。

 それは三人の亜人奴隷が、見張り役と思える四人の人族にブロック塀で造られた焼却場のような一角で囲まれ、拷問らしきものを受けている最中で、耳を澄ませば悲鳴のような声が届くほどだった。


 じっくり様子を見ながら人族制圧を考えていた迅ら一行であったが、急遽計画変更。すぐさま簡単な打ち合わせで乗り込むこととなる。


 迅とレンカは、まばらではあるが草木が隠れ蓑になりそうな物の陰にして、その拷問現場に向かう。


 そろそろ身を隠す遮蔽物もなくなり鉱山現場まで残り数十メートル手前で歩みを止める。


 迅は腰に手を当ていつでも剣を抜ける状態にする。この時点で抜剣していないのは、迅にとってはその方が動きやすく走り易いためだ。


 隣のレンカは既に硬化状態となり、顔から下が薄黒く変色し鱗が具現化していた。


 先程よりも間近で見た光景に焦る迅。それを見て制するレンカ。人族らの声が届く



「ふざやがってこのケモノ野郎が! 」


「逃げれると思ってるとかアマアマなんだよお」


「とにかくこいつら見せしめだあ。一旦作業中断だあ。奴隷連中集めろ! 連中の目の前でこいつら殺す 」


「あっははあっ。それはいい」


 四人の人族に囲まれた亜人は三人とも後ろ手に手錠の上から縄を縛られ並ぶように座らされていた。


「監督、今日はどうやって殺ります? 」


「今日は剣だな。ふふっ。こうやってな」


 その監督と呼ばれた男は、剣を振りかぶりゴルフスイングするような形をとる。


「こうやってスパーンだ」


「ハハハっそれゃいい。カヤクもいいっすけどね」


 亜人三人は初めは抵抗していたのかはわからないが、今は半ば諦めているかのように震えてみえる。この鉱山の造り故、間近の山が音を反響させ、声が迅、レンカのもとにも良く届いていた。



 マジなのか。ホントにこんな会話あるのか……クズどこじゃねーぞ!



「おお。大分集まったな。おい。お前からだ前屈め! 」


 その監督が座り込んでる三人の亜人の一人を蹴飛ばし、正座の状態から前屈みにさせ、集めた奴隷亜人らに向け叫ぶ


「おいお前らあ! 良おく見ておけーっ! 逃げようとする奴は例外なく、こう……」


 といいながら不気味な笑顔で剣を振りかぶり、ざわつく奴隷たちからは声にならない悲鳴があがる。


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