第11話

ヨシの心は少しずつ邪悪なもの変化しつつあった。


弓は、確実にゴウの方へ向けられている。

「【答えろ。俺の家族を殺したのはお前なのか?】」

ヨシの声は、なぜか低く・・・・何かに侵されたような声になっている。


「あのなぁ、答えるも何も、俺とあんたはいま、会ったばかりだぜ?そんなことするわけないだろ?」

と、ゴウは説明しようとするが・・・

「【うるさい】」

「おーっと」

ヨシは、ゴウに攻撃をしようとするがかわされた。

ヨシの後ろには、魔物が張り付いている。

「(彼の心を操っているのはあいつか・・・・でも、どうしたらいい)」


もし、ここで力を使ったら彼にまで影響する。

でも、使わないと助からないし・・・。

彼は、めずらしくまよっていた。


「【お前じゃなくても殺す!】」

そう言って、ヨシが弓を射ろうとした瞬間だった!


「ダメだ!彼を射ってはならない!」

と言う叫び声が・・・・


「えっ?だれ?」

「【誰だてめえは】」

ヨシの弓は、今度は《その人》に向けられた。



「彼ではない!お前の家族を殺したのは!」

「【だったら、お前も殺す!】」

「・・・・・・」

その人は、ヨシが向けた弓を自ら受けようとしているのか・・・・

動かずに真っ直ぐにヨシの方を見ている。

「いいだろう。射てるものなら射って見なさい」

彼はそう言ったが・・・

「ダメです!彼は操られています」

「構わない。お前がその弓を受け継ぐ者に相応しいか見てやろうではないか」

「えっ?相応しい?どういう意味だ?」

ヨシは、その人に向かって弓を動かそうとしていたが・・・・なぜか動かない・・・・。

「ミュウ!ミュウ!」

「な、なぜ射れない・・」

ヨシの心を支配している魔物が動き出そうとしていた。


「今のうちです!!」

「えっ?」

その人が、ゴウに耳打ちをしている。

「彼はまだ、戦士の力を手に入れていない。」

「!未熟ってことですか」

なぜ、この人が戦士の力のことを・・・

まさか、この人・・・


ゴウは、さっきからその人に不思議な力を感じていた。


「あの、あなた・・」

ゴウは、その人に何かを聞こうとしていたが・・・・・

「うう・・・・・・」

ヨシは頭を抑え始めた。

「かれは、心と戦っている」

「しかし、彼は戦は・・・闘いは嫌いだと先程・・・」

「そうか・・・・」


その人の寂しそうな目が、さっき見たヨシの顔と重なった。

「もしや、あなたは・・・・」

「【2人まとめて殺してやる】」

ヨシの心は、完全に邪悪化し、弓に闇の力が加わってしまった。


「やはり、抑えられなかったか」

「どうすれば・・・」


流石にいつも冷静なゴウも、どうすればいいのかわからずにいるみたいだ。

ただヨシは、孤独であるんだということはみんな感じていた。


と、そこへ

「ミュウ!ミュウ!」


小動物。あれはもしや!

「ミュウ!」

先程の男の人が、なぜか小動物の名前を口にして・・・


「あなたまさかあの子の名前を知っているのですか?」


「・・・・・もしかして彼は・・・・」


ただまだ、聞く暇もなく・・・・・


「《死ね》」


ヨシの指から矢が放たれた!


「危ない!!」

「あっ!」


ゴウを庇ってくれたのは、まぎれもなく「彼」。

「だ、大丈夫ですか?」


「わたしは大丈夫だ。・・・・それより君たちは逃げなさい」

と、その人は言う。

「逃げる?」

ゴウは、その言葉になぜか敏感に反応する。

「俺は・・・・」

(逃げるきなんかねぇよ)

ゴウは、そう言いかけた。

「君たちは、旅の途中でしょう?」

「逃げませんよ。俺は」

自信たっぷりに答えるゴウ。



「えっ?」


「人が苦しんでいるのに、逃げるなんて・・・。それにあなたは俺を庇ったせいで怪我してる。それに、あの操られた彼も、俺たちに何か関わりがあるんじゃないかって思ったし・・・。」

「・・・・・彼が・・」


ヨシの方を見て呟く。

「かれはまだ受け継いでいない。関わりがあるかも確認してない。でも俺は、彼を助けたいんです」


「あぁ、私もだ。」


そして、

「兄さん!」

「ゴウ君、大丈夫ですか?」

遅れて2人が到着。


「俺は、大丈夫だ。それより、この人を・・・」


「・・・ひどい怪我・・・」



「【獲物が増えたな】」


ヨシはニヤリとした。

「彼は操られてますか?」

マサは、ヨシの顔を見て、ゾクリとした。

「そのようですね。彼の後ろからすごい邪気を発しています」

「・・・・・」


「あの小動物は、彼のパートナーみたいで・・・」


「ミュウミュウ」

ミュウは、操られていない。

彼を必死に呼んでいる。

だが、このままじゃ・・・。

「ミュウ!ミュウ!」


「【うるさい!うるさい!】」


彼は尚、心と戦い続けていたが、体は彼らを狙っている。


そして頭の中に流れてきたのは、なぜかレイナとの会話。



「あなたは、きっといい戦士になるわ」

「あんたに俺の何がわかる」

「これは私の勘よ」

「・・・・レイナ・・・・」


その名を口にし、何故か弓を射るのを辞めたヨシ。



そして・・・・

「ヨシ?」

遠く離れた場所にいるのに、ふいに呼ばれた気がした。


「どうされました?レイナ様。」


「アルフ、ちょっと出かけてくるわね。留守をお願い」

「レイナ様!どこへ行かれると言うのです」


その声を聞かず、レイナは既に走り出していた。




「どうしたら人間を好きになれるかな」

ヨシは、ミュウにいつもそう呟いていた。


「ミュウ」

ミュウは、何も話さないが、いつもヨシに寄り添ってくれていた。


「ミュウ、俺はお前がいてくれればいいよ」


そう言って抱きしめた。


そんな回想が彼の頭の中を駆け巡る。



「急に邪気が収まったぞ?」

マサは構えていたが少し緩まった邪気に、自分も身構えるのを辞めた。


「何か感じているのかな。彼の心を動かすものに」

「そうですね。きっと、彼の心を動かす何かがあるみたいですね」



だがそれは、まだ何かわからない。

だから、すこし警戒しながらも彼に近づこうとしていた。




レイナは、感じていた。

遠く離れていても、ヨシに渡した破魔の矢の《気》を!


「ヨシ!どこにいるの?私に何かを言って!すぐに行くから!!」


「・・・・・・・・」


「ミュウ!」


そして・・・・


「・・・・ミュウ、逃げろ・・・・。くっ・・・」 「あっ!何か言ってる」

「ミュウ」

ミュウは、邪悪な試に支配されているヨシにいつもの頬擦りをした。


「傷ついて動けなかったはずなのに・・・・」

「きっと、彼の心を取り戻そうとしているんですよ」

「彼の心を動かすもののひとつはあの子なんだネ」

様子を伺う彼ら。


【ふふふ。これは邪魔者が入ったようですね】


「俺たちは、見ていることしか出来ねぇのかよ」

ゴウは、モヤモヤしている。

我慢できずに、ヨシの元へ、行こうとするが

「やめなさい。彼自身も戦っているから。」


「・・・・うっ・・・彼は、なんという名だ。」


「あっ、気が付かれましたか?」

「あの彼は・・・・、君たちと共に旅をしている者か?」

傷ついた旅の男は、弱々しく聞いた。


「あなたは生き残りの戦士様ですか?相当お疲れのようですね」

ヒロは、持ってきた薬草で彼の傷口を手当していた。


「っていうか、あいつ・・・。いや、あの人はたった1人で旅してるみたいだぜ。人間を嫌ってるみたいだけど?なにせ、俺を家族を殺した魔物と間違えてたしな」

と、ゴウは、話した。


「そのようですね。彼はそんな目をしていましたし」

「名を聞いていないのだな」

「そうなんだよなー。みるからに仲間に出来そうな人なんだけど・・・・」


このゴウの一言が後にそうなるとは、まだ、誰も知らずにいて・・・・。


「そうか・・・・」


旅の男は、ヨシを見て切なそうな顔をしている。


もしかして知り合いか?



「ミュウ!ミュウ」


「ミュウ・・・・なぜ逃げない・・・・。なぜ・・・」


【フフ、殺せ。殺すんだ。そんなちっぽけな生き物必要ない】


「うっ・・・ミュウ・・・俺は・・・・俺は・・・・」


そして、その時だった!!


「ヨシ!気をしっかり持つのよ!!

ミュウは、あなたの分身なんだから!」


そこへ現れたのは・・・・


「・・・誰?」


振り向くと、美しい女の人・・・・・


「あのお方は・・・・」


彼女は、ヨシに静かに近づいている。


「・・・・れ・・・いな?」


意識が薄れゆく中、自分を呼んでくれる人・・・・・。

彼は、倒れかけていて・・・・


「ヨシ!しっかりして!!」



レイナと呼ばれた女性は、ヨシをしっかり抱きしめた。

「うわぁ、すごーい」

ジュンは感心していた。

そして、

「・・・ヨシと言うんだな」


「そうみたいですね」

【な、なんだこの力は・・・・】

「あなたを許しません」


「この気は・・・」

普通の人には感じないオーラを、あの方には・・・【レイナ】と呼ばれたあの女性には感じる。



「あなたを成敗します。覚悟しなさい」


レイナは、自分が持っていた破魔の矢に、最大の力を込めると、矢を放った。


【ギャーギャー】


その光は、敵の急所を一気に貫いた。



戦いは終わった。


「不思議なオーラの女性だ」

ヒロはその時、自分の想い人である【カナ】の面影と重ねた。


同じ力を持つお方だと、確信したのだ。




そして


「ヨシ・・・大丈夫?」

「レイナ・・・なぜ来た」

「助けてと、聞こえた気がしたの」


また、二人の世界になっている。



「助けを呼んだ覚えは・・・・」

「助けたかったの。あなたを」

「えっ?」

「あなたを孤独な悲しみから救ってあげたいから・・・・」

と、レイナはヨシを見つめた。

しばらく2人は見つめ合うと


「ミュウも、心配しているから」

と、沈黙を破った。


「ミュウ!ミュウ!」

そうだよ!と答えるように鳴いている。


「とりあえず、一件落着だな」

と、マサさん。


「大丈夫ですか?」

ヒロはそっと2人に近づいた。


「すいません・・・」

「・・・・・」

2人は、彼らの存在に気づき・・・


「いえ、俺はこのまま・・」

と、去ろうとするヨシさんと

「私もこれで・・・」

レイナも去ろうとしたのを止めるかのように・・・

「あなたは、よく遠い場所からここがおわかりになりましたね」

と、ヒロさん。

「すいません。彼に渡した破魔の矢を感じたものですから」

「あの、そなたの名は・・・・」


と、旅の男。

「レイナと申します。光の国から来ました」

「あなたは、普通の村人でもないですね。その格好は位の高いお方。女王、もしくは姫君では?」

レイナの服装でわかるなんて・・・・



「すいません、わたしはそんな位は、考えていないものですから」

「わたしの知り合いにもそんな人いたのでつい。では気をつけてお帰りください」


「はい、ではわたしはこれで」


そう言うとレイナは行ってしまった。


「・・・・・。女王様なんだあの人・・・」

「みなさん、宿に行きますよ?」


7人は、近くの宿でゆっくり休むことにした。

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