第5話

その頃である。

ケンも出発するところだった。

「ケン、最後にキョウカになにか話しておきなさいよ」

「えっ?」

真っ赤になるケン。

「サキ・・・・」

つられてキョウカも真っ赤になっている。

「なに?2人して赤くなるなんて怪しいよ!さてはもう約束でも交わしたの?」

サキが冗談っぽく言ったがふたりは静かに頷いた。

「やるじゃない、ケン。こうなったら、絶対生きて帰ってきなさいよ?裏切ったら許さないから」

サキが2人の手を取り、

「キョウカのことは、私に任せといて!あんたが無事にあるように2人で祈ってるから」

「サキ・・・色々ありがとね」

「うん」


「じゃあ、行ってきます」

ケンはニコリと笑うと、旅立って行った。


「ケン、気をつけて。それから、仲間を大切にね・・・・」



キョウカは、そう呟いていた。


その頃ヨシはと言うと・・・

体の調子も戻り、起きて窓の外を見ていた。

「もう、起きてもいいのか?」

「・・・・風が止まっている。こんな静かな場所なのか?」

「・・・そうよ。ここは、守られているから・・・」

「世話になったな。そろそろ行かないと・・・」

「あなたはまだ、自分の力が目覚めてないのね」

「えっ?」


「私にはわかるわよ。あなたがかつての戦士と同じ血を持っているって」

「そんなの俺は信じない。信じたくもない」

「・・・・でも、きっとわかるわ。自分の使命が・・・・」

「俺はもう、大切な人を失いたくない」

「でも・・・・」

「しつこいな」

「あなたの大切な人がどうなったかは知らないけど・・・。同じことを繰り返したくなかったらあなたは使命を果たすべきよ」

「何も知らないくせに勝手なことを・・・・・・」

「あなたは・・・・」

「俺には、父も母もいない。父親なんて、旅に出たまま帰ってこないんだ。家族がいなくなったことなんてきっと知らないだろうさ・・・・」

「人間は、いつか死ぬのよ?でも、人を恨んではダメ」

「父親は、俺たちを捨てたんだ」

「違うわよ」

「あんたに何がわかる!!」


「・・・・わかるわよ・・・・」

彼女が泣き始めた。

「なぜ、泣いている・・・」

「・・・わからない・・・」


「女って、すぐ泣くよな・・・」


ヨシは、少し困った顔をして・・・

「世話になったな」

これ以上、この人と話すことは無いと思い、帰ることにした。

「ミュウ、おいで」

だけどミュウは、彼女の肩から動こうとしない。

「・・・よほど君が気に入ったんだな。俺以外には懐かなかったのに・・・」


「飼い主に似たのね」

「えっ?」

「ふふっ、冗談よ。ほら、ミュウ、お前の大好きなご主人様が呼んでるよ」

彼女は、優しくミュウに語りかけた。

するとミュウは、大人しくヨシのもとへと戻った。

「それじゃあ・・・」

「待って!」

彼女は、呼び止めた。

「まだ、なにか?」

「この弓を持っていきなさいよ」

「いらないよ」

「魔物がうろついているんだから、普通の弓ではやられるわよ?それでもいいの?」

「しつこいな・・・俺は戦いには・・・」

「いずれ必要になるから。この矢も・・・」

「いや、だから・・・」

「あなたはきっといい戦士になる。いい仲間にもきっと会える」

「俺は1人で・・・・」


「一人で生きていく?そんな寂しい生き方しないでよ」

「寂しいだと?」

「あなたはきっといつか人として気づくことになるわ」

「人として気づくこと・・・・?」

「これから会う仲間に気付かされるはずよ」

「なぜ、そんなことが分かる。さっきからほんと不思議なことを言うよな・・・あんたって」

「言っとくけど、わたし・・・「あんた」って名前じゃないわよ?」

そう言えば、名前聞いてなかったっけ?

そういう俺も言ってないけど・・・・


「レイナよ」

「・・・・・・レイナ・・・・」


「また・・」

「また、なんてあるのかな・・・」

「あるかもしれないし、ないかもしれない。でも、わたしは信じてる」

「・・・・じゃあ、俺も信じるよ。ミュウが、信じろってうるさいから・・・・・」

「(笑)なにそれ」

「・・・ありがとう、レイナ」

「・・・・元気で・・・・」

この2人も、いずれまたあうことになる。

でも、それは、先のこと。

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