おししょーは、撃ち合いをする。
ーーーキッツいな、コレ。
ブレイヴの聖魔法によって、アーサスと感覚を共有したティーチは、木刀を構えながら、慣れない感覚に眉根を寄せた。
視界が二つあるような、わずかにズレて二重になったような感覚。
軽くまばたきをしたらアーサスの視覚だけが残ったので、ティーチはいっそ目を閉じた。
アーサスが《凝視(ダースタ)》の武技を行使すると、周りの景色よりも鮮明に、レイザーの姿が見える。
ーーー行ける。
ティーチが呼吸を整えた瞬間、レイザーが槍をしごいた。
先ほど見た攻撃の速度と、技の起こり。
その動きを読んで、ティーチは一歩、踏み込んだ。
真っ直ぐ立てた木刀を予測した軌道上に振り下ろしながら、武技を発動する。
パン! と何かがぶつかるような感覚と共に、《|武技吸収(アビリティドレイン)》が発動し、木刀が風の気を吸い込んだ。
二つが入り混じった奇妙な気配を感じた後、核となる風気を失った火気が周りに霧散して、ブワッと一瞬、炎が舞い広がって消失する。
「あれ?」
「貰ったぜ。ーーー《鏡纏身(ヴェイルドアップ)》!」
ズォ、と風が渦巻き、解けた黒い木刀が大きく広がって体を鎧った。
いつもの全身鎧とは違う、翠の縁取りを持つ黒い外殻。
目元と顔の左側だけを覆う鉄仮面に、胸元と腰、手足の先だけを覆う、軽装鎧に似た形だ。
その中で、左腕だけがいつも以上に強固な形で鎧われており、手首に、弓のような長い曲線の突起が一体化して左右に伸びている。
人差し指と中指を立てた形で、左手が鏃(やじり)のように鋭い突起型の装甲に纏めて覆われていた。
遠距離攻撃に特化した〝風〟の鎧である。
五感が鋭くなり、世界の様子がより明瞭に感じられるようになった。
「なら、もう一発だ!」
驚いていたレイザーが我に返り、再び槍をしごくのを、ティーチは軽く横に跳んで避ける。
〝風〟の鎧は、他の形態に比べて力は弱いが、動きの速さが増しているのだ。
馬の足と、腕の弓ーーー騎馬弓兵の力を、得るのである。
風切り音と、弾け飛ぶ爆炎。
しかしレイザーは、こちらが避けたのを、この距離で正確に見極めたようだった。
「避けるんじゃねーよ!!」
ーーー無茶言うんじゃねーよ。
内心で吐き捨てながら、ティーチは集中する。
レイザーが、ギリギリ目で追えるかどうかという高速の三連撃を放ってくるのが見えた。
ーーー嘘だろ!?
あれは、常人どころか熟達した魔導士や槍術士でも使えないような、複雑な複合武技のはずだ。
それを、距離や位置を少しずつ変えてこちらの逃げ場を塞ぐように三発。
あまりにも圧倒的なセンスの塊。
神童の名は、決してハリボテではない。
避け切れない、と判断したティーチは、大きく後ろに飛びすさりつつ、左手の弓を構えて応じた。
弓を引くように右手を構えると、不可視の弦を引くような感覚が指先に宿る。
「〝|黒の散弾(ショット・ブレイク)〟!」
せっかく取り込んだ風の力を失ってしまうが、仕方がない。
パッと右手を開くと同時に、左手の指先から無数の小さな風の矢が放たれて大きく広がった。
レイザーの連撃と衝突し、目の前に炎の壁が出来上がる。
【纏鎧】が解けたティーチは、黒い木刀を手に、着地と同時に丘の背後に向かって駆け抜けた。
その後を、さらなる連撃を放ったレイザーの攻撃が追ってくる。
「……つぁッ!!」
最後に、一度立ち止まって最後の一発を木刀に吸収すると、飛び込むように射程範囲外に逃れた。
「何だあの化け物!!」
「あはは、残念ー! 負けだねー♪」
『カノン、笑ってる場合じゃねぇだろ!?』
安全な場所にいて、手を叩くカノンと、それに突っ込むブレイヴ。
アーサスは武技を解いて大きく息を吐き、スートは不満そうに頬を膨らませていた。
「おししょー!! 何で勝たないんですかー!?」
「無茶言うなよ!」
ハッキリ言って、めちゃくちゃ強い。
死なないどころか怪我をしなかっただけでも褒めて欲しいところだ。
「ていうかお前ら、自分は安全なところに居るくせに文句言うなっつーの!」
「文句は言ってないよー♪ レイザーはやっぱり強いなーって思ってるだけー♪」
カノンは笑いながら立ち上がり、片目を閉じた。
「ーーーでも、狙い通りに盗れたね♪」
「ああ」
ティーチはそもそも、一合でレイザーに勝てるとは思っていなかった。
一応勝つつもりでやったが、アレはヤバすぎる。
きっちりもう一回風の力を吸い込んだ黒い木刀を見下ろしながら、ふぅ、と大きく息を吐き、待っていた仲間たちに告げる。
「次で終わりにする。……さっさと準備しようぜ」
レイザーが業を煮やして降りてきたら、近接戦闘では絶対に勝てない。
その前に、きっちり片をつけなければならなかった。
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