6話 その薬草、おまけにつき。
この家の庭は相変わらずとても広い。それで、この前ふと思ったのだが、薬草を育ててみるのもなかなか面白そうだ。
この世界には、たくさんの薬草が存在する。例えば喉の痛みに効く「イソジ草」や、腹痛に効く「セロガ草」、頭痛に効く「ソニーク草」などがある。
切り傷などの外傷は魔法の類でなんとかなるのだが、体の不調ばかりはこの世界の魔法ではどうにもならない。そのためか、薬草の開発はかなり進んでいる。
かくゆう俺も魔法の力がなさすぎるので、以前はかなり積極的に買い求めていた。
「おーいベル、すこし出かけてくるからー」
恐らく自室にいたのだろう。遠くからこもったような音で
「なにー?聞こえないー?」
「だからー出かけてくるー」
「ちょっと、聞こえないんだけど―」
こいつ....絶対に聞こえててわざとやってやがる....すこし懲らしめてやろう。
「おい!聞こえてんだろ!すこし出かけてくるから!」
「なに?聞えな―—」
「ファイアボール!」
「ちょっと!何するのよ!いきなり人の部屋のドアを焼却するなんて!」
「お前が聞こえないフリをするのが悪い。じゃあ、すこし出かけてくるからな」
「はいはい。逝ってらっしゃい」
なんか行ってらっしゃいが逝ってらっしゃいに聞こえた気がするがどうでもいい。
近所の薬草屋もとい、薬屋まで行くことにした。
自宅から徒歩で30分ほどにある「ハーバル薬草屋」という店に到着した。
王国では見られないような風情ある木造の外装で、看板は所々錆びている。
外観だけではかなり入りにくい、いかにもお得意様以外お断りみたいな雰囲気な店だが、ここには前からお世話になっているため、あまり声を大にして不満は言えまい。
「こんちわー、ハーバルさん」
「おお、来たか。久しぶりだな。なにしてたんだ?」
「いやぁ、ちょっと色々あって....」
この白髪で少し髪が薄い40代後半くらい(年齢非公開)のおじさんがハーバルである。アイドルかよ...
「で、今日はなにを買いに来たんだ?」
「家の庭が広くなったから、少し薬草を育てようかと思って。なんか初心者向けのっ
てあるか?」
『強欲』のスキルで育て方自体は調べられるのだが、それに見合う技術を持ち合わせていないため、あまり難しいのは初めは無理だ。——あれ?俺の加護弱くね?
「そういうことなら、薬草歴20年の俺に任せておけ。そうだな....ルール草なんかど
うだ?」
ルール草とは軽い風邪全般に効く、いわゆる万能薬みたいなものだ。薬の性能自体はお世辞にも高いとは言えないが、汎用性が高いため、風邪っぽくなったらとりあえずこれを飲んで寝ればいいと言われている。
育て方も比較的簡単なため、薬草初心者でも手を付けやすいと人気である。
「いいもんあるじゃん。じゃあ、それ買ってくよ。いくらだ?」
「種が人袋で銅の300リペルだ」
「250リペルなら買うんだが....」
「300リペルで値切ろうとするな。さあ、買った買った」
「ちぇ、ケチな奴め...まあいいか、ほらよ」
「まいど。あ、そうだついでにこれも持っていけ。おまけだ」
そういってさっき購入したルール草よりも一回りほど小さい袋を投げて渡してきた。どうやらこれにもなんかしらの種が入っているらしい。
「これ、なんの種だ?」
「そいつは育ってからのお楽しみだな、ってお前に見せたら加護で分かっちまうか。
そいつはあれだ、セロガ草だ。育て方は自分で調べろ」
「センキュ。じゃ、またな」
「おう」
300リペルは値切ってくれなかったのに無料で種をくれるとはよく分からない奴だな。
あ、そうか!これが俗に言うツンデレってやつか!ツンデレってやつだったのか!
おじさんのツンデレは少々いや、大分痛いが...
「ただいまー」
「なにー?聞こえない?」
まだやってたのかあいつ....俺の周りには変わったやつしかいないな...
「ドアを焼却されたくなきゃ出てこい!」
「な、なにか用かしら?」
おお、出てきやがった。恐怖を体に刻み込むというのは中々悪くないな....逮捕だけはしないでくださいお願いします。
「ああ、薬草の種を買って来たんだが、庭に植えてもいいか?」
「へえ、なんの種?」
「ルール草とセロガ草だ。どっちも初心者向けど育てやすいらしい。育て方は俺が
知ってる」
「いいんじゃない。私は興味ないからやらないけど」
「いいさ、俺一人でやるから」
「そう」
なんだか素気ないな、なにが気に入らなかったんだか...
ベルのことは気にせず、植えることにした。庭の土はフロンティアの物で、土の質がかなり良いと辺境のなかでは人気らしい。何十年もかけて良くなるよう努力してきた人達がいたんだ。本当に感謝しかない。
「ここら辺でいいか」
加護で検索した通りに植え、あとは毎日水やりをするだけだ。しっかりとした仕事についていないので、時間だけはたくさんある。枯れたりしないように、ちゃんと面倒を見ることにした。
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