第5話 真、思い出の品を見つける

 ドールハウスに欠品があったらしい。

「フライパンのセットがありませんわ」

「スマホ用のコンセントも欲しい―のー」

 ドールハウスはおもちゃの家ではなかったのか。

 まぁ、備え付けの二段ベッドでわちゃわちゃしているふたりを眺めているのは、悪くない。

 そういえば妻が、大事なものという名目で、備品をまとめてしまっておいたはずだ。

 がさごそと遺品のはいった箪笥を漁れば、お目当ての箱が見つかった。桐でできた、立派な箱だ。

「まぁ素敵でお洒落なフライパンですわ!」

「たこ足コンセントもあるー」

 フライパンにステキもお洒落もないと思うのだが。そもそもおもちゃのキッチンで調理はできないだろう。

 まして、たこ足コンセントなど、なぜ備品として入っているのか理解できない。

「あら、この鋏はなんですの?」

「わたしたちには、おっきーのー」

 ふたりがしげしげと見ているのは、小さな爪切りばさみだ。

 娘は赤ん坊のころに、妻が苦労しながら切っていたな。あれからもう20年は過ぎたのか。

「きっと大切なものなのですわ」

「キレイにして、しまっておくのー」

 私は、色々なものを忘れてしまっているようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る