第1話 人助けの旅 with 怒り
はぁ~、と深いため息をつく。
もはや彼の脳内は、「腹立つ」の四文字と、「ムカつく」の四文字で満たされている。
彼がため息をつくときはたいてい、彼の師匠にあたるアストライアの愚行を目にした時だ。もちろん今回のため息の原因もそれである。
現在一行は“テナーの森”を通り、隣村までの道のりを進んでいる。彼の傍らには三人の子どもと、いまだ愚行を繰り返すバカな魔法使い一人。銀色の長髪をポニーテールでまとめ、伸びた前髪で右目を隠している。すらっと伸びた身体からだの頂上に、いかにも「わたしは魔法使いです」と言わんばかりのつば広帽子をかぶっている。右手にはそれっぽい杖も持っている。
ではここで、先ほどからアストライアが繰り返している愚行についての説明に移ろう。
ここら辺の地域ではめったの魔法使いは現れず、子どもたちからしてみれば「ヒーロー」のようなものだ。アストライアはそんな子ども達の態度に見事のせられ、魔法をところかまわずぶっ放しているのである。
これが平和な道のりであれば彼も文句は言うまい。アストライアのこういった乗せられ易い性格には慣れている。生まれてからずっと一緒にいるのだから、もはや当たり前のことと認識している。
しかし今進んでいる“テナーの森”は平和な道のりとは言い難い。なぜなら―――
ドカッ
背中に衝撃が走り思考が止まる。
「「あ」」
子どもたちとアストライアの「やっちまった」感満載の声がこぼれた。
後ろを向くと、足元に小石が転がっていた。大方これを飛ばして遊んでいたのだろう。
堪忍袋の緒が切れる、どころか彼は堪忍袋の緒を引きちぎって、後ろで下手な口笛を吹いて知らん顔をする自分の師匠をにらみつける。
「黙って聞いてりゃ好き勝手しやがって!依頼内容を忘れたんですかあんたは!?」
そう言いながら先ほどの小石を拾い上げてアストライアに投げつける。
アストライアは難なくそれを風魔法でいなし、悪ぶれる様子もなく言葉を放つ。
「私が忘れるわけないだろう。この子どもたちをすぐそこの村まで送り届けてくれって、それだけだろ?」
やはり大事な部分を忘れていたか、と彼は再び深々とため息をつく。
「確かに依頼内容はそうだけど、ここらで頻繁にオークとゴブリンの目撃証言が出てるって、依頼主はそう言ってただろ。そんなに魔法使って、もしオークが出てきたらどうすんだよ。」
そういいながら彼はアストライアの後ろにいる三人の子どもを指さす。
「………まぁ、わたしはあくまでオークがこの魔法にビビッてこっちに来れないようにしていたつもりだったんだけどなぁ。ま、カインがそう言うならやめてあげてもいいよ。はい、やめた。」
そう言ってアストライアは両手を広げて降参のポーズをし、はにかんで見せる。
呆れてものも言えないとはこのことであるが、こんなことは日常茶飯事であり、もう慣れた。それでもやはりカインはため息をついて、再び歩き出す。
そんなカインの様子を見て、子ども達が、
「ねぇ、カイン怒ったの?」
と歩み寄ってくる。
「ううん、そんなことないよ。ただもうあの人には近づかない方がいいよ。バカが
「ふ~ん、そっか!分かった!」
一人がそう大きな返事をすると、ほかの二人も釣られてうなずいた。
後ろの方から味方を失った悲しき「ヒーロー」の視線を感じるのは、気のせいではないだろう。
***
そんなこんなで無事隣村まで子どもたちを送り届け、カインとアストライアは報酬をもらい、また旅に出る。
これが、《
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